マスク社会は脳の感受性期に影響を与えるのではないか、新しい生活様式は大人目線
新しい生活様式のリスク
2020年5月、新型コロナウイルス感染症対策として政府は、新しい生活様式を国民に提唱しました。
新しい生活様式とは次のようなことです。
・人との間隔はできるだけ2m空ける。
・会話をする際は可能な限り真正面を避ける。
・外出時や室内でも会話する時は、人との間隔が十分にとれない場合は症状がなくてもマスクを着用する。
・家に帰ったら手や顔を洗う。人混みの多い場所に行った後は、できるだけすぐに着替える、シャワーを浴びる。
・手洗いは30秒程度かけて水と石鹸で丁寧に洗う。
これらの中でも感染症対策の基本として特に強調されたのが、身体的距離の確保、マスクの着用、手洗いでした。
これから約3年経った今でも実践されているかと思います。
大人の社会だけでなく、子供達が過ごす保育園や幼稚園、学校などの教育現場でもこの3つが未だに実践され続けている状態ではないでしょうか。
では、子供にこれらを強いることは本当に正しいことなのか、今一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。
この新しい生活様式というのは大人目線でしか考えられていないのではないでしょうか。
子供は、大人のミニチュアではありません。
環境の影響を強く受けながら脳を発達させている、その途上にある存在です。
既に完成している大人の脳であれば、新しい生活様式は不便さはありますが実践をしていくことは可能かと思います。
しかし、この生活様式の実践が長期化して、これが当たり前の社会になったら子供達の脳や心にどんな影響があるのでしょうか。
これに対して明確な答えが出ているわけではありません。
ですが、こうした視点に意識を向けて真剣に議論をしておくことはとても重要なことだと思います。
何も起こらなければそれでいいですが、もし何かが起こってしまって事後的に対処していてはもう既に遅いのです。
残念ながら日本では、これに関して危惧を抱いている人は多くはいないように思えます。
このコロナ騒動で分かったことは、日本は海外に比べて同調圧力がとても強い国だと言うことです。
日本社会では同僚圧力が強く、子供を含む全ての人に一律のルールを当てはめようとする暗黙の空気があります。
多数派の意見に従うことで安心感を得ようとする無意識的なバイアス、分化を持っている国だと言うことを改めて強く感じたのがこのコロナ騒動でした。
マスクの着用は子供にとって特に問題になるのではないかと感じます。
例えば、乳幼児期は目の前にいる人の表情や声かけを日常的に経験しながら言葉や他者との関わり方を身に付けていく重要な時期になります。
なのにマスクをした他者との日常が当たり前になってしまうと、このような学びの機会を大きく失うことになります。
そして、身体的距離の確保です。
これも乳幼児期には不可欠な経験の一つです。
人間は哺乳類という生物です。
乳幼児期には、親をはじめとする誰かとの身体接触なしには存在することすらできません。
それにも関わらずコロナの感染対策の徹底を訴える人の頭の中には、残念ながらこうした視点はまったくないのではないでしょうか。
パンデミックが始まって生まれた子供達は、もう3歳になろうとしています。
ようやくマスク着用が個人の判断と政府が言いましたが、日本のマスク社会はこれからも続いていくのではないでしょうか。
そもそも日本ではマスク着由は一度も義務化されていないのにです。
国民が国民を監視し事実上義務化されている状態ではないでしょうか。
子供達の脳と心の健全な発達に必要となる環境をできる限り戻していく努力をしてほしいものです。
脳の感受性期1歳でピークを迎える
保育や教育に関する一般書では、脳は年齢と共に右肩上がりに直線的に発達するかのように記載されていることが多いようです。
しかし、これは厳密に言うと正しくはありません。
人間の脳は、でこぼこしながら育っていきます。
子供の脳内ネットワークは、環境の影響を大きく受けながら発達をしていきます。
そのプロセスでは、環境の影響を特に受けやすい、ある限られた特別の時期というものがあります。
これを臨界期と言います。
ただし、このような表現だとこの時期を過ぎたら脳は環境の影響を全く受けないと誤解を与えてしまうので
感受性期と呼ばれることが多くなってきました。
私たち人間は、言語を用いたコミュニケーションや理論的に思考するなどの高度で複雑な認知機能を持っています。
このようなヒト特有の認知機能の多くは、大脳皮質という脳領域の活動によって生じています。
ヒトは他の霊長類と比べてもかなり大きな大脳皮質を持っています。
ヒトの大脳皮質には、約160億個の神経細胞があると言われていますが、その数が最も多いのは胎児期から生後数ヶ月になります。
神経細胞は、多ければ多いほど良いというわけでもありません。
神経細胞は。樹状突起や軸索と呼ばれるアンテナを伸ばして、他の神経細胞とシナプスで電気信号のやり取りをします。
こうした神経細胞同士の繋がり、ネットワークを構築してはじめて情報のやりとりができます。
胎児期から幼少期では、大人よりも神経細胞の数が多く、それらが繋がっているネットワークが密になっていくことになりますが、ここで一つ大きな問題があります。
大人の脳では、1日に消費するエネルギーの約20%が脳の活動で消費されます。
つまり、この時期に過剰なほど密なネットワークが形成されるとエネルギーの供給が追い付かなくなってしまい、固体は存在できなくなってしまいます。
しかし、生命の仕組みは実に巧妙に作られています。
生まれ落ちた環境で情報のやり取りによく使われるネットワークだけ残っていきます。
あまり使われないネットワークは無駄なので死んでいきます。
それぞれの環境で適応した脳へと変化をしていくのです。
これを刈り込み現象と言います。
脳発達の感受性期とは、環境に適応して生存可能性を高める為に必要となる脳内ネットワークの選択が急激に進む時期です。
大脳皮質の中で感受性期が比較的早く訪れるのは視覚野と聴覚野になります。
1歳くらいにピークを迎え7~8歳頃まで続きます。
そして、就学を迎える頃には環境の影響を受けにくくなっていきます。
私たちは、目や耳から入ってきた情報を記憶などと照らし合わせて、それが何を意味しているのかを理解しています。
それに対しての反応を言語化したり、意思決定をして行動したりすることで複雑な社会の中で生きていくことができるようになっていきます。
乳児は相手の口元に注目している
このようなことがスムーズにできる土台となっているのは、視覚野と聴覚野の適切な働きによるもので、その感受性期が乳児期から幼児期にかけてなのです。
一番分かりやすいのは言語の学習です。
多くの日本人にとって英語のlとrの発音を聞き分けることが非常に難しいです。
しかし、イギリス人やアメリカ人は聞き分けることができ使いこなすことができます。
これができるのは、英語圏の人たちが英語を話す人たちが周りにいる環境で幼少期を過ごしたからです。
日本語の学習においても同じことが言えます。
私たちは、乳幼児期に周りの環境から大きな影響を受けて育ちます。
なので家族以外の周りの人たちがみんなマスクをしているとどうなってしまうのでしょうか。
目だけでなく、表情全体を使ってコミュニケーションをすることが難しくなった日常において乳幼児期の脳や心の発達、社会性の発達に何らかの影響が出てくる可能性があるのではないでしょうか。
大人の感覚からすると分からないかもしれませんが、子供は目だけを使ってコミュニケーションができるわけではありません。
それが可能になるまでに時間をかけた学びが必要なのです。
アイ・トラッキングと言う装置を使うと乳児に話しかけた時に彼らがどこをどのように見ているかを可視化することができます。
生後6ヶ月くらいから相手の目よりも口元のほうを長く見ることが分かっているそうです。
また、乳児はただ相手の目や口元を見るだけではなく、その動きや音を自分でもやってみようとします。
「ワンワンだね」と乳児に笑って伝えたら乳児も「ワンワン」と言って笑顔を返す。
これはコロナ前では当たり前の光景でした。
乳児期には、こうしたやりとりを日々経験しながら相手の心や言葉を学んでいくのです。
ですが、今乳児を取り巻く他者の口元は、マスクで完全に隠されているのではないでしょうか。
家族以外の場での学びの機会が奪われているのではないでしょうか。
果たしてこのような環境で育った子供がどのような大人になっていくのでしょうか。
参考書籍⇒マスク社会が危ない 子どもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?