健康を支える常在菌、私たちは微生物と共存している
目次
微生物とは?
微生物とは、顕微鏡で拡大しないと目に見えないほど小さい生物の総称です。
常在菌のように人体に住み着いているものや空気中のちりやほこりに混じっているもの海や川に生息しているものなど、ありとあらゆる場所に存在しています。
微生物は地球上のどこにでもいます。
微生物は大きく分けて原核生物と真核生物に分けることができます。
原核生物は、遺伝子を守る核が存在せずに自分の子孫を残す為に必要な遺伝子が細胞膜にひとまとめに包まれているシンプルな構造をしています。
これには、細菌と古細菌が分類されます。
真核生物は、核やミトコンドリア、小胞体などの細胞小器官を持ち細胞の作りが動物と同じような構造をしています。
これには真菌と原虫が分類されます。
ちなみにウイルスは細胞を持っていなく増殖ができないので生物ではなく非生物になりますが、微生物として扱うこともあります。
大きさとしては、ウイルス<細菌(古細菌)<真菌<原虫になります。
私たちは微生物と共存している
私たちの健康は地球上に最初に誕生した微生物によって支えられています。
その中でも身近な存在として常在菌があります。
常在菌は、皮膚や消化管、口腔内などに存在しています。
常在菌とは「人体に住み着き健康であれば害にならない微生物」のことを言います。
体内の決まった部位に常在菌が集団で存在していることを常在菌叢と言います。
微生物が生息している様子がお花畑に似ているのでフローラと呼んだりもします。
腸内であれば腸内フローラ、口腔内であれば口腔フローラです。
母親の子宮内にいる胎児は破水がなければ無菌状態ですが、主産時に産道を通る時に膣内に生息している細菌や病院の医師や看護師、母親の皮膚の常在菌、周囲の環境の菌などをもらい受けます。
そして、その直後から赤ちゃんの皮膚や鼻腔、消化管などの粘膜に菌が増殖しはじめ2~3日後には常在菌が形成されるとされています。
その後、周囲の環境から菌を取り込み成長するにつれて生存競争に勝ち抜いてきた菌が時間をかけて常在菌叢が形成されていきます。
3歳ごろまでに成人と同じような状態になるとされています。
私たちの健康を支える常在菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分類されます。
善玉菌は食品中の成分を分解したり代謝したりして人間にとって有益な代謝産物を作ってくれます。
悪玉菌は食品中の成分から人間にとって有害な代謝産物を作ります。
日和見菌はどちらにも属さない菌のことです。
体内の状況や体調の良し悪しによって有益にも有害にも作用することがあると考えられています。
常在菌は主に皮膚や消化管、口腔内に存在していて、その数は100兆個以上になると言われています。
常在菌の種類や数はその人の年齢や性別、居住地、気候、生活習慣などによって変化します。
私たちは微生物と常に共存関係にあるのです。
皮膚の常在菌は身体を守っている
私たちの皮膚は、暑さや寒さ紫外線、病原菌など様々なものから身体を守っています。
そして、その皮膚に生息している1000種類以上の微生物が皮膚フローラを形成しています。
皮膚の常在菌の中には皮膚の環境を悪くする悪玉菌があります。
代表的なのが黄色ブドウ球菌とマラセチア菌です。
黄色ブドウ球菌は食中毒で有名ですが、皮膚表面や皮脂腺に存在しています。
存在するだけでは何の問題もありませんが、ブドウ球菌の中では病原性が高いので皮膚がアルカリ性に傾くと増殖し肌荒れや皮膚炎などの原因になってしまいます。
マラセチア菌は、ニキビを引き起こします。
ニキビと言うとアクネ菌を思い浮かべるかもしれませんが、一般的にできるニキビはマラセチア菌と言うカビによってできまるとされています。
マラセチア菌は、湿気の多い梅雨から夏にかけて増殖します。
アクネ菌と同じように皮脂を分解し脂肪酸とグリセリンを作っています。
ですが、毛穴を刺激する脂肪酸を大量に生み出すことでマラセチア毛包炎と言われるニキビのような赤い発疹を引き起こします。
悪玉菌が暴走しないように皮膚の環境を守っているのが表皮ブドウ球菌とアクネ菌などの常在菌です。
皮膚の毛穴の皮脂腺から分泌される脂質を含んだ分泌物が皮脂です。
皮膚の表面に常に薄い膜状に広がり、物理的、化学的に皮膚や毛髪を保護、保湿する働きをしています。
皮膚の常在菌は、この皮脂の分泌量を調整する重要な働きをしています。
常在菌は、皮脂を皮脂分解酵素で脂肪酸とグリセリンに分解することで病原菌の侵入を防ぎ、肌に潤いを与えるのにちょうど良い皮脂の状態を保つようにしています。
肌の潤いを与える表皮ブドウ球菌
表皮ブドウ球菌は、ブドウの房状に集まる性質からブドウ球菌と呼ばれています。
皮膚表面や鼻の中などに生息する常在菌で基本的に非病原性ですが、体内に侵入して感染症の原因になることもあります。
表皮ブドウ球菌は、肌に潤いを与えて老化を抑制する働きがあるとされています。
汗などによって肌がアルカリ性に傾くと黄色ブドウ球菌などの悪玉菌が増え肌トラブルの原因になります。
表皮ブドウ球菌が汗や皮脂を脂肪酸に分解することで皮膚を弱酸性にし、角質層の水分を保持するグリセリンを作り出します。
さらにアミノ酸を主成分とする抗菌ペプチドを作ります。
抗菌ペプチドは悪玉菌の増殖を抑える働きがあります。
ニキビのイメージが強いアクネ菌は人間に役立つ細菌
アクネ菌は、皮膚の常在菌の一種で全身に存在しています。
特に皮脂の多い顔やその周辺、特に毛穴に多くいます。
常在菌なのでニキビがほとんどできない人にも存在しています。
生活習慣やホルモンバランスの乱れ、ストレスなどによって皮脂の分泌増加や角質の劣化によって毛穴が詰まりやすくなるとアクネ菌が繁殖しやすくなります。
それによって免疫機能が働いて皮膚が炎症を起こして赤ニキビになります。
アクネ菌はニキビの菌と言うイメージが強いかもしれませんが、人間の役に立つ細菌です。
表皮ブドウ球菌と同じようにアクネ菌は、皮脂を分解して皮膚を弱酸性に保ってくれます。
腸の常在菌は腸内環境を保っている
腸は、食べ物の消化吸収や便を作っています。
腸には様々な常在菌が存在していて腸内環境を保っています。
人間が持つ腸内細菌は1.5~2kgあるとされ、これらの菌は腸の中にある程度決まった場所に腸内細菌叢として生育しています。
腸内細菌叢は一度形成される比較的固定されますので、後から食べ物などと一緒に入ってくる病原菌などが割り込むことができません。
先住者の腸内細菌によって排除されてしまいます。
食べた物は胃を通過した後、十二指腸、空腸、回腸、大腸へと運ばれます。
胃では、胃酸が分泌されているので内容物1g当たり10個ほどしか生きた細菌は見つかりませんが、十二指腸、空腸ではそれぞれ1000~10000個ほど、回腸では数千万~数億個、大腸では100兆個以上です。
腸内細菌の多くは大腸にいます。
腸内細菌の中には腸内環境を悪くする常在菌も存在しています。
代表的なのがウェルシュ菌と大腸菌です。
では、これらが増えるとどうなるのでしょうか。
ウェルシュ菌も大腸菌も食中毒の原因菌として知られています。
ですが、腸内に常在するウェルシュ菌と大腸菌は基本的に非病原性です。
食中毒の原因になる毒素生産型のウェルシュ菌や病原性大腸菌を外部から取り込んでしまうと食中毒を引き起してしまいます。
しかし、非病原性のウェルシュ菌と大腸菌も増加し過ぎてしまうと様々な有害物質を生み出し便秘や下痢などを引き起こします。
また、肌荒れの原因になることもあります。
腸の中には、免疫細胞の7割があり腸内細菌のバランスが崩れてしまうと免疫機能が低下してしまいます。
それによって感染症や大腸ガンなど様々な病気に罹りやすくなります。
腸内さ菌のバランスを整えることはとても重要なことと言えます。
ビフィズス菌
ビフィズス菌は腸内環境を整える代表的な菌です。
ビフィズス菌は、糖質を分解して悪玉の増殖を抑える乳酸と殺菌力を持つ酢酸を発生させます。
他にもビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸などを合成する働きもあります。
日和見菌
腸内細菌の約7割が日和見菌です。
主にバクテロイデス門とファーミキューテス門が優勢となっています。
バクテロイデス門は善玉菌を好む日和見菌で、ファーミキューテス門は悪玉菌を好む日和見菌とされています。
日和見菌はビタミン合成などの働きもしますが、悪玉菌が優勢の時は有害物質を作ります。
善玉菌が優勢なのか悪玉菌が優勢なのかによって働きが変わります。
また、肥満の人ではファーミキューテス門の細菌が多く、バクテロイデス門の細菌が少ないことが明らかになっています。
このことから俗にファーミキューテス門はデブ菌と言われ、バクテロイデス門はやせ菌と言われたりもしています。
過剰な除菌は免疫が弱くなる
微生物は地球上のありとあらゆる場所に存在していますが、昨今のウイルス騒動によってあらゆる場所で過剰に除菌がされています。
これにより多くの人が無菌の方が良いと言うイメージを持っているかもしれませんが、地球上で無菌状態はあり得ません。
私たちは常に微生物と共存関係にあり私たちの健康を支えていると言うことも理解しましょう。
病気になるかどうかは、免疫とのバランスなのです。
無菌状態で育つと免疫が獲得できず病気になりやすくなります。
過剰な除菌は逆効果にもなると言うことです。
微生物の世界は肉眼で見ることができない世界です。
まだ解明されていないことがたくさんあるので、今後も新しいことが続々と発見されていくかと思います。