筋力トレーニングは睡眠の質やメンタルを改善させる効果が期待できる
睡眠とは?
睡眠は1日の疲れを取る為の時間です。
ビジネスパーソンにとっても睡眠をいかい取るかは非常に重要な課題であり、多忙な仕事による不規則な生活は、肉体だけでなく精神にも不調をきたしてしまいます。
なので毎日十分な睡眠を取ることがとても大切になります。
睡眠は時間帯によってレム睡眠とノンレム睡眠の2つに分けることができます。
私たちは眠りが浅い時に夢を見ています。
これは脳が覚醒時よりも強く活動をしているからです。
しかし、身体の筋肉は緩んで運動機能が停止しているので外見的には寝ているように見えます。
この時間帯がレム睡眠です。
一方で深い眠りの時は脳の活動も収まってぐっすり眠っている状態になります。
この時間帯がノンレム睡眠です。
ノンレム睡眠の時に起こされると頭がボーっとして寝ぼけた状態で目覚めが悪くなります。
通常の睡眠では就寝からノンレム睡眠に入って一般的に90分程度でレム睡眠に移行するとされています。
これを1セットとして繰り返しています。
また、睡眠をさらに詳しく見てみると5段階の睡眠構造に分類することができます。
ノンレム睡眠は、浅いノンレム睡眠であるステージ1とステージ2、深いノンレム睡眠である徐波睡眠に分けられます。
睡眠の質は、この睡眠構造の度合いで判断をすることができます。
特に深いノンレム睡眠である徐波睡眠が多くなることは、深く眠れていることになり睡眠の質が高いと言えます。
一般的に睡眠の質は加齢によって低下していきます。
これは入眠時と浅いノンレム睡眠の増加、徐波睡眠の減少が原因です。
また、男女でも睡眠構造の特徴があります。
女性は男性に比べて全体の睡眠時間は少ない傾向にありますが、ステージ1が少なく徐波睡眠が多いことが分かっています。
女性は男性よりも深く眠ることができると言うことです。
筋力トレーニングは睡眠の質を向上させる
睡眠の質を改善させるには筋力トレーニングが有効です。
精神科医のオークランダー氏も自身の仕事の忙しさで心身に大きな疲労を感じている一人でした。
そこでかねて自分が受け持つ患者さんに提案していた運動の重要性を自らも本格的に実践することにしました。
トレーナーをつけて筋力トレーニングを始めたのです。
そして、1ヶ月が過ぎた頃に自身の身体に起こった変化について次のように述べています。
「睡眠時間は少ないにも関わらず、ぐっすりと眠れるようになりました。そして、エネルギーに満ち溢れている自分に気付きました。」
オークランダー氏のコメントを裏付けるかのように2017年7月世界で初めて筋力トレーニングと睡眠についてのシステマティックレビューが報告されました。
運動が睡眠に良い影響を与えるエビデンスの多くは、ジョギングなどの有酸素運動に限られていて、筋力トレーニングについては示されていなかったのです。
マクマスター大学のコワヴィッチらは、筋力トレーニングと睡眠に関する13の研究報告を発表しました。
習慣的に筋力トレーニングをしている場合、睡眠時間は増えないがステージ1を減少させて徐波睡眠を増加させることが示されました。
ステージ1の減少と徐波睡眠の増加と言う相乗効果によって睡眠の質が高まっているのです。
また総負荷量、週の頻度が睡眠に与える影響についても統計的な解析を行いました。
その結果、総負荷量と週の頻度は睡眠の質の改善に関係することが分かりました。
総負荷量は運動強度に対し、回数やセット数を乗じたものです。
睡眠の質は、少ない総負荷量よりも多い総負荷量で改善し少ない頻度(週1~2)よりも多い頻度(週3)で改善することが分かりました。
筋力トレーニングは、睡眠の質を改善し総負荷量や頻度が高い方がより改善効果が得られると言うことです。
睡眠の質が改善するメカニズム
では、筋力トレーニングはどのようなメカニズムによって睡眠の質を改善してくれるのでしょうか。
主に次のようなことが考えられます。
・筋力トレーニング後の睡眠中の体温が上昇する
徐波睡眠を誘発させる
・筋力トレーニングによる心拍数の増加が迷走神経を活発にする
睡眠時は心拍数が下がり睡眠の質が改善する
・筋力トレーニングは不安を解消させる
脳由来の神経栄養因子を増加させて睡眠の質を改善する
これら以外にもグルコースの代謝、成長ホルモンの増加などが睡眠の質を改善すると推察されています。
コワヴィッチらは、これらの実証にはさらなる検証が必要であるとしています。
コワヴィッチらの発表は、世界で初めて筋力トレーニングが睡眠の質を高めると言うエビデンスを示しました。
習慣的にトレーニングを行うことで、睡眠の質を高めることができそうです。
睡眠に悩んでいる人は、筋力トレーニングを行ってみると良いでしょう。
筋力トレーニングはメンタルを改善する
日本人は欧米の人達に比べて不安障害やうつ病が多いことが知られています。
精神医学や脳科学では、この原因をセロトニンの発現量の違いであることを明らかにしています。
日本人の97%は脳内のセロトニン発現量が少なく、ネガティブなことに対して強い不安を持ちます。
これによって日本人の特性である真面目、几帳面、責任感が強い、人間関係のトラブルを過剰に嫌うなどの性格を形成していると言えます。
これが不安障害やうつ病を発病させる基盤となっています。
不安は人間にとって不可欠な感情ではありますが、過度な状態が続いてしまうと心の病気に繋がってしまいます。
精神医学やスポーツ科学では、投薬や認知行動療法の補助的手段として有酸素運動に注目をしていました。
有酸素運動が不安を改善させるメカニズムとして、幸福感を高めるセロトニンやエンドルフィンと言った神経伝達物質、神経成長因子が関係しています。
有酸素運動は安静時の心拍数を減少させるので、不安を感じた時などの心拍数の増加も相対的に抑える効果があります。
そして、近年では筋力トレーニングも不安を解消する運動として注目を集めています。
筋力トレーニングは不安やうつ病を改善する
2017年に世界で初めて筋力トレーニングと不安やストレスとの関係を調査した16の研究報告をまとめて解析したメタアナリシスが報告されました。
筋力トレーニングは健常者の不安を大幅に改善させるとともに不安障害などの患者の不安も改善することが示されました。
また、これらの改善効果は性別、年齢の影響を受けません。
筋力トレーニングはうつ病への効果もあります。
運動をしない人に比べて運動をする人は、心身の健康が悪化した日が過去1ヶ月で1.49日少なかったのです。
反対に過剰な運動はメンタルへの悪化に繋がることもわかりました。
筋力トレーニングを行っていた被験者では、週3~5回、1回45分以上のトレーニングで20.1%にメンタル改善の効果が認められました。
日本人は、特にセロトニンの分泌量が少なく不安障害やうつ病を発症させやすい性質があります。
なので欧米人に比べてメンタルヘルスに問題を抱えているケースが多いとされています。
現代の精神医学やスポーツ科学では、不安やうつ病になる前にメンタルをマネジメントすべきであると提案をしています。
もし、心に違和感があるようであれば筋力トレーニングをしてみてはいかがでしょうか。