大卒エリートの所得増が止まった背景:深刻化する「不完全就業」と学歴過剰の実態
現代の知識社会において、かつては高収入と社会的地位の代名詞であった「大卒者」の所得が伸び悩んでいます。
アメリカでは、1970年代から黒人労働者が、次いで低学歴の白人労働者が市場から脱落し始めましたが、現在その波はついに「大卒エリート」にまで及んでいます。
なぜ、高い教育を受けたはずの層が経済的な壁に直面しているのでしょうか。
その背景には、労働市場における深刻なミスマッチがあります。
「不完全就業(学歴過剰)」とは何か?
アメリカの労働経済学者たちは、個人の学歴に対して仕事の内容が見合っていない状態を「不完全就業(Underemployment)」、あるいは「学歴過剰」と呼んでいます。
この実態を正確に把握するために、主に2つの測定手法が用いられています。
| 測定手法 | 内容 | 推計される不完全就業率 |
| 自己申告法 | 労働者自身が「現在の職務に対して自分の教育水準が過剰か」を回答する。 | 10% 〜 20% |
| 職務分析法 | 研究者が各職業の職務内容を分析し、必要な教育水準と照らし合わせる。 | 20% 〜 35% |
このように、客観的な分析(職務分析法)では、自覚している以上に「学歴を活かせていない」層が多いことが浮き彫りになっています。
大卒者が就いている「意外な職種」の衝撃
統計データは、多くの大卒者が本来の専門性を活かせる職種ではなく、サービス業や現業系の現場で働いている現実を示しています。
- サービス・現場職
レジ係、ウェイター、調理人、清掃員、郵便員 - 技術・管理職
コンピューター・システムアドミニストレーター
特に衝撃的なのは、修士・博士といった「大学院卒」の学位を持つ層の現状です。
現在、レジ係や清掃員として働く大学院卒の人数は、かつての上位格付け職種である「弁護士」や「州判事」として働く人の総数よりも多くなっています。
「エリートの過剰生産」が招く絶望
歴史学者のピーター・ターチンは、この状況を「エリートの過剰生産」という言葉で指摘しています。
高等教育が普及し、エリート予備軍が増え続ける一方で、彼らにふさわしい「高貴な地位(ハイステータスな職)」の数は限られているためです。
不完全就業率の推移
- 2000年: 25.2%
- 2010年: 40% (リーマンショック後の不況を経て急増)
わずか10年で不完全就業率は劇的に跳ね上がりました。
十分な教育投資を行いながら、それに見合うリターン(職や所得)を得られない若者たちの間で、社会に対する強い不満と絶望が蓄積されています。
参考書籍 ⇒ 無理ゲー社会




