健康知識

大腸がんの原因はデスクワーク?飲酒・喫煙に匹敵する「座りっぱなし」のリスクと現代病の真実

大腸がん(特に結腸がん)の発症には、飲酒や喫煙といった嗜好品だけでなく、日々の「デスクワーク(座りっぱなしの生活)」や「身体活動の減少」が同じくらい重大なリスクとして関わっています。

日本人男性において1日2合以上の飲酒と喫煙が重なると大腸がんのリスクは3倍に跳ね上がり、これらを無くすだけで男性の大腸がんの半数近くが予防できるとされています。

しかしそれと同時に、10年間のデスクワークは大腸がんリスクを2倍に高め、逆に立ち仕事や活発な身体活動(立つ・歩くなど)を行う人は発症率が40%〜70%以上も低くなることが分かっています。

1960年代以降のデスクワークの増加や乗用車の普及、そして雪国や車社会の地域で発症率が高いという統計からも、大腸がんは運動量の減少が招く「現代病」であるという事実が導き出されます。

飲酒と喫煙が大腸がんに与える甚大な影響

健康リスクの代表格である飲酒と喫煙は、大腸がん、特に男性における発症率を劇的に跳ね上げる要因となっています。

飲酒・喫煙による発症率のトリプル化

日本人男性における調査において、日本酒に換算して「1日に2合以上」の酒を飲み、さらに「タバコを吸う」という二つの習慣を併せ持つ人は、飲酒も喫煙もどちらもしない人と比較した場合、大腸がんの発症率が「3倍」にまで跳ね上がることが分かっています。

タバコの煙と大腸粘膜への影響

タバコの煙には、さまざまな種類の発がん性物質が含まれています。
吸入されたタバコの煙は直接的には呼吸器系などに触れるものですが、驚くべきことに、煙が直接触れることのない「大腸の粘膜」からも発がん性物質が検出されています。
このことから、喫煙が血液などを介して全身を巡り、大腸の健康にまで悪影響を及ぼしていることが裏付けられています。

大腸がんにおける顕著な男女差とその背景

大腸がんの発症率および死亡率には、男女間で明確な格差が存在します。
男性は、年齢で調整した大腸がんの発症率と死亡率の双方が、ともに女性よりも「2倍」高いというデータが知られています。
さらに、大腸がんの中でも「直腸がん」に限定すると、この男女間の格差はさらに広がることが分かっています。

専門家らは、このように男性の発症率・死亡率が突出して高い理由について、「男性の方が飲酒や喫煙をする人の割合が高いからであろう」と推測しています。
この見解を裏付ける試算として、もしも日本人男性がはじめから飲酒も喫煙も一切行わなければ、男性の大腸がんの「半数近く」を未然に予防することができると考えられています。

飲酒・喫煙に匹敵するリスク:「デスクワーク」と結腸がん

大腸がん、とりわけ「結腸がん」を招く要因として、飲酒や喫煙と同じくらい危険であると指摘されているのが、日々の仕事で机に向かい続ける「デスクワーク」です。

オーストラリアの研究が示す10年間のデスクワークリスク

オーストラリアの研究者らによる報告によると、デスクワークという就業形態を「10年間」にわたって継続した人は、デスクワークの経験がない人と比較した場合、大腸がんに「2倍」なりやすいという結果が述べられています。
長期間にわたる座りっぱなしの労働環境が、大腸がんのリスクを倍増させることが示唆されています。

日本の研究が明かす「立ち仕事」の優位性

日本国内で行われた研究でも、仕事中の姿勢や身体活動が大腸がんに与える影響が報告されています。
その研究によると、「立ち仕事」を中心に行っている人は、デスクワークを生活の中心としている人と比較して、大腸がんの発症率が「70%以上も低かった」という事実が明らかになっています。

日本人6万5000人を対象とした大規模調査と身体活動量

さらに、日本人約6万5000人を対象に実施された大規模な調査からは、日常生活や仕事における身体活動の総量とがん発症率との関連性がより具体的に示されています。

この調査では、以下のあらゆる身体活動をすべて総合して活動量を評価しています。

  • 立つこと
  • 歩くこと
  • 走ること
  • 重いものを持つこと
  • 激しいスポーツを行うこと

これらの活動を積極的に行い、「身体活動が多い」と分類された男性は、活動量が少ない男性に比べて、「結腸がん」の発症率が「40%以上」も低くなるという結果が得られました。
女性に関しては、同様の身体活動量と結腸がん発症率との間に、はっきりとしたデータが得られていないようです。

デスクワークが結腸がんを増やすメカニズムの仮説

なぜ机に向かう時間が長くなると、結腸がんの発症が増加してしまうのでしょうか。

その具体的な原因やメカニズムについては、以下のいくつかの要素が複合的に関与していると考えられています。

  • 肥満のリスク増加: 机に向かい続けることで活動量が減り、脂肪が蓄積されやすくなる。
  • 胆汁分泌の乱れ: 身体を動かさないことによって、消化液である胆汁の分泌や代謝に狂いが生じる。
  • 免疫機能の低下: 運動不足が体全体の免疫機能を低下させ、がん細胞の増殖を許しやすくなる。

これらの変化が体内で起こることにより、結腸がんの発症リスクが高まるのではないかと推測されています。

地域特性・統計から見る「体を動かさない生活」との関連

メディカル

大腸がんの発症率は日本国内の地域によっても偏りがあり、その偏り自体が「体をあまり動かさない生活習慣」と大腸がん発生との深い関連性を証明するひとつの証拠となっています。

雪国および車社会における発症率の高まり

大腸がんは、日本国内において「北海道」「東北」「山陰」といった、冬の季節に多くの雪が積もる地方で多く発生する傾向が見られます。

厚生労働省が公表している「全国がん登録2020」の、年齢で調整したデータによる大腸がん発症率が高い都道府県のトップ4は以下の通りです。

順位都道府県地域特性・背景
1位秋田県冬場の豪雪による屋外活動の制限・運動不足
2位青森県冬場の豪雪による屋外活動の制限・運動不足
3位鳥取県冬場の豪雪による屋外活動の制限・運動不足
4位沖縄県雪は降らないが、極めて自動車依存度が高い**「車社会」**

上位3県はいずれも冬場に積雪に見舞われる寒冷な地域ですが、注目すべきは4位にランクインしている「沖縄県」です。沖縄県は雪が降る地域ではありませんが、日常生活において自動車への依存度が高い「車社会」として知られています。

冬の積雪によって外出や屋外での運動が制限される地域や、車社会化が進んで歩く機会が減少している地域において発症率が高くなっているというこの統計結果は、まさに「体をあまり動かさない生活(身体活動の低下)」が大腸がんの発生に深く結びついていることを裏づける有力な証拠と言えます。

歴史的背景と「現代病」としての大腸がん

大腸がんの発症率の推移を歴史的に振り返ると、社会の構造変化や人々のライフスタイルの変化と完全に合致していることが分かります。

1960年代を境とした日本の変化

日本において、大腸がんの発症率が明確に上昇へと転じ、上がり始めた時期は「1960年代」です。
この1960年代という時代は、日本の社会構造において以下の二つの大きな変化が同時に起こった時期と完全に一致しています。

  • 企業や会社において、机に向かって仕事をする「デスクワークにつく人」が急激に増加したこと
  • 一般家庭や社会全体において「乗用車が普及」したこと

すなわち、仕事中も日常生活の移動においても、人間が自らの体を使って動かす機会が減少し始めた時期こそが、大腸がん増加の起点となっています。

糖尿病の増加と大腸がんの共通背景

1960年代に起こった「デスクワークの増加」と「乗用車の普及」という社会の変化は、大腸がんだけでなく、同時に「糖尿病の増加」をもたらした原因でもありました。
体を動かさない生活習慣が、複数の慢性疾患や生活習慣病を同時に押し上げる土壌となったことが示されています。

「欧米病」ではなく「現代病」であるという結論

大腸がんは、かつては西洋的な食生活などに起因する「欧米病」と呼ばれることもありました。
しかし、世界のデータに目を向けると、例えば「中国」における大腸がんの発症率は低い状態にあります。
この中国の発症率の低さについては、日々の「運動量の違い(身体活動の多さ)」によるものである可能性が考えられています。

会社でのデスクワークの定着、乗用車の普及、それに伴う運動量の減少や肥満、体内機能の乱れといった一連のプロセスを踏まえると、大腸がんは特定の地域に固有の「欧米病」というよりも、文明の発達によって身体活動を失った現代社会全体の歪みが引き起こす「現代病」であると捉えるのが自然です。