急激に変化するストレスに身体は追い付いていない、ストレスは身体に負担をかける
目次
ストレッサーが急激に変化している
ストレスは、時代と共に変化していきます。
現代では、学校や会社、SNSなどの人間関係における不安や怒りなどが多く占めるのではないでしょうか。
高齢者においては、近年のテクノロジーに付いていけずにイライラしてしまうテクノストレスも深刻化していると言われているようです。
古代での一番のストレスは生命の危機でした。
食べ物が常にあるわけではないので飢餓の心配が常にあり、野生生物からの身の危険、寒さや暑さから身を守ることなど、生命に直結するストレッサーばかりでした。
現代では、農作の発展や産業革命と共に生命の危機を感じることはなくなりました。
いつでもどこでも好きな時間に好きな物を食べることができ、寒さや暑さは空腸で調整することもできます。
移動は、車や電車などで短い時間で安全に移動することもできるようになりました。
現代の日本において生命の危機と言うストレッサーを感じることは、ほぼ皆無になっていると言えます。
では、こうしたストレスの変化に私たちの身体は対応することができているのでしょうか。
産業革命以降生活は急激に変化したが身体は変化していない
人類の進化
人類は、ストレスの変化に対応する為に脳を発達させてきました。
ですが、身体の発達については大きく変わっていません。
人類の進化について見てみましょう。
今から約700万年前、人類はアフリカ大陸で誕生をしたと言われています。
人類は、チンパンジーと別の道を進み二足歩行を獲得し猿人となりました。
そして、約250万年前に私たちと同じような姿をした原人が出現し、約30万年前に旧人と呼ばれる姿になりました。
今の姿である新人が出現したのは、約20万年前と言われています。
日本において、ホモ・サピエンスが上陸したのは、化石などの分析から約3万8000年前とされています。
人類はずっと狩猟採集の生活をしていた
約700万年前と言う人類の歴史を見てみるとほとんどの間、狩猟採集生活をしていました。
獲物を狩り、植物を採取して、その日に食べられる物を食べると言う生活です。
当然、電気もないし冷蔵庫などないですし、いつ食べ物にありつけるかも分からない状況なので食べることができる分は全て食べていました。
獲物が捕れなくなれば場所を移動して生活をしていました。
人類の700万年と言う歴史のうち、最後の1万年でようやく農耕と牧畜が始まって定住生活を送るようになったと言われています。
人類史で見ると700分の1でしかないと言うことです。
その後、今から5000年前くらいに古代エジプト文明やメソポタミア文明などが誕生したとされています。
産業革命以降生活が急激に変化
産業革命がイギリスで起ったのが今から約200年前です。
これによって電話や冷蔵庫、テレビなどの家電製品、電車、車、飛行機などの乗り物、細菌感染から守る為の抗生物質などが開発されました。
産業革命によって私たちの生活は大きく変化したのです。
今では当たり前のネットですが、パソコンや携帯電話、SNSなどのネットが普及したのはここ数十年のことです。
人類の歴史で見ると最後のほんの一瞬で私たちの暮らしは急激に変化したのです。
生活が変化したことで私たちが受けるストレスも大きく変化しています。
私たちが受けるストレスは、大きく変化をしましたが私たちの身体は大きく変化はしていません。
身体は現代社会に対応できていない
社会生活を円滑に送る為に、現代のストレスに対処する為に人類は脳を発達させてきました。
ですが、それでも大脳皮質(前頭前野)で対処できなかったストレッサーの影響が身体に出ることがあります。
大脳皮質で生じたストレッサーの影響は、大脳辺縁系に伝わって間接的に視床へと伝わってしまいます。
それによって視床下部から自律神経や内分泌器官に情報が届いて、様々なストレス反を引き起こしてしまいます。
これによって生じる身体の反応は、果たして現代のストレッサーに適応できていると言えるのでしょうか。
私たちの身体は、古代からあまり変化をしていないとされています。
その為にストレッサーの種類が精神的なものやSNSなどのテクノストレスであっても、全て古代のストレッサーであった生命の危機の対処として働いているのではないかと推測されています。
つまり、現代における様々なストレッサーに対して身体は適応できていないと考えられるのです。
ストレスに対する身体の反応
ストレスによって体温が上昇し発熱する
私たちの体温は、外気温に関係なく常に36~37℃程度に保たれています。
このような体温調節機能は、鳥類や哺乳類に備わった生体恒常性機能によるものです。
体内では、食べた物を消化分解し吸収してエネルギーに変化させるなど生命活動を維持する為に常に化学変化が行われています。
代謝とは体内の化学変化のことですが、代謝を円滑にする為に様々な酵素が存在しています。
その為に体温は36.5℃に保たれていると考えられています。
この温度を超えてしまうと酵素が変性しやすくなりその機能が発揮できなくなってしまいます。
また、体温が下がることでも血流が減少して酵素反応が穏やかになり、さらには免疫機能の低下を招いてしまいます。
この体温の恒常性に影響を及ぼすストレッサーとして著しいのは感染です。
感染時には、視床下部の体温調節中枢による体温調節のセットポイントを正常よりも高いレベルにすることで発熱を起こします。
体内に細菌やウイルスなどが侵入してくると単球やマクロファージなどの免疫細胞から発熱物質としてインターロイキンやインターフェロンなどのサイトカインが放出されます。
発熱によって体温が上昇すると多くの病原体の増殖を防ぐことができ、その一方で抗体生産能を亢進するなどして免疫細胞が活性化します。
発熱をすることで感染と言うストレッサーから身体を守ろうとしているのです。
発熱時でも体温が40℃以上になることはほとんどありません。
41~42℃を超えないようにする仕組みが働いているからです。
発熱する原因が取り除かれると放熱機能が高まって発汗が起こり体温は元に戻っていきます。
また、精神的なストレスによっても体温の上昇が起こって発熱が続くこともあります。
これは、本来体温調節を行う必要がない刺激に対して、感染症などと同じように身体が対処しようとしている為です。
精神的な発熱に関しては、感染症と違って炎症反応がないので血液検査をしても原因が分からないと言うことがよくあるようです。
血糖値はストレスによっても変動する
私たちの血糖値は一定に保たれています。
空腹時の時は、70~110mg/dlに維持されています。
食事だけでなく、精神的・身体的ストレスによっても血糖値は変動をします。
血糖値が一定に保たれているのは、脳や筋肉などの全身の細胞の働きを維持し続ける為です。
食事から摂取した炭水化物(糖質)をエネルギーとして使えるようにするホルモンがインスリンです。
インスリンと言うと血糖値を下げるイメージが強いかもしれませんが、本来の目的は血液中の糖質を細胞内に取り込んでエネルギーとして利用することでその結果、血糖値が下がります。
その一方で血糖値が低下を感知すると血糖値を上げようとするホルモンもあります。
グルカゴンやアドレナリン、グルココルチコイド、成長ホルモンなどです。
副交感神経が高まるとインスリン分泌を増加させて交感神経が高まるとグルココルチコイドやアドレナリンなどの分泌を増加させます。
人類はこれまで飢餓との戦いでした。
身体には、脳のエネルギー源となる糖質を枯渇させないように様々な仕組みが備わっています。
血液中の糖質が余分になった際は、肝臓や筋肉でグリコーゲンとして蓄えられます。
さらに余分な分は、中性脂肪に変換して脂肪組織に蓄えられます。
糖質の供給が減ると膵臓から分泌されるグルカゴンによって肝臓はグリコーゲンをグルコースに変えて血液中に放出します。
他には、糖新生と言ってアミノ酸や乳酸などから糖質を作り出すこともできます。
食事をしなくても糖新生によって血糖値を維持することができるのです。
血糖値が低い状態が続いてしまうと脳は機能障害を起こしてしまい場合によって昏睡状態になり死に至ることもあります。
血糖値を下げるホルモンがインスリンだけなのに対し、上げるホルモンが多くあるのは古代のストレッサーである飢餓から生命を守る為に備わった身体の対応能力と言えます。
血糖値は食事だけでなくストレスによっても変動をします。
試験の際の緊張などの精神的なストレスだけでなく、痛みなどの身体的なストレスによっても血糖値を上げるホルモンの分泌が高まり血糖値が上昇することが分かっています。
ストレス状態では、副腎皮質からグルココルチコイドの分泌が亢進します。
グルココルチコイドの一つであるコルチゾールは、抗ストレスホルモンと呼ばれています。
ストレスから身体を守る為に血糖値や血圧を上げて脳を活性化させて炎症を抑える働きもあります。
ストレス状態では、コルチゾールやアドレナリンなどの分泌が促されて血糖値が上昇します。
もちろん血糖値の上昇を必要とする場面もありますが、現代の日本は飽食であり糖質はむしろ摂り過ぎている傾向にあります。
なので不安や怒りなどのストレスに対してその都度血糖値を上げてしまうと糖尿病のリスクが高くなると考えられます。
身体的・精神的ストレスによって血圧は上昇
血圧は低すぎても問題ですが高すぎても問題になります。
身体の各器官に酸素や栄養素を与えて不要な代謝産物を回収する為に各器官へ常に血流を送り続けないといけません。
その為に血圧はある一定の範囲に保たれています。
血圧は血液量によって変動をします。
出血などで血液量が減少した際は、尿量を減らし喉の渇きを引き起こして飲水量を増大させ血液量を調整して血圧を高めようとしています。
血液量の調節は、分単位、長い時は日単位で行っています。
また、運動などの身体的ストレスや緊張や不安、恐怖などの精神的ストレスは、交感神経を刺激しノルアドレナリンやアドレナリンが分泌されて血圧が上昇します。
古代の生活を考えると、猛獣から逃げたり獲物を捕まえたり脳や筋肉に瞬時に血液を送る場面に備える必要があり、酸素や栄養素を各細胞に送り続ける為に血圧を上げる仕組みが多く存在しています。
現代でも身体的なストレスに対しては適しています。
ですが、精神的なストレスに関しては長く続いてしまうと循環器系に悪影響を及ぼしてしまい身体に負担をかけることに繋がると言えます。
現代のストレスに対して身体は対応しきれていない
現代の日本では飽食となり、生活習慣病を防ぐ為に、食べ過ぎない、飲み過ぎないことが健康の維持に重要であるとなっています。
糖尿病や高血圧は、国民病と言われるくらい増加しています。
ですが、人類の長い歴史を見てみると、そのほとんどが飢餓の時代でありホモ・サピエンスが誕生してからも20万年もの間、私たちの祖先は少ないエネルギーで生き延びてきたのです。
その為に人間も含めた全ての生物は非常に効率よくできていて、少ないエネルギーでもたくさん活動ができる仕組みになっています。
私たちの身体は古代より大きく変化していません。
体温、血糖値、血圧などの低下は生命の危機に直結するので、いかにこれらを維持するかが重要でした。
現代の様々なストレッサーに対して身体は、古代と同じように対応を行っているので、現代の精神的なストレッサーなどに対してはミスマッチが起こっていると考えられているのです。
ストレスを長く続いてしまうと身体に悪影響を及ぼしてしまうので、上手くストレスを発散させていくことがなによりも重要だと思われます。