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高齢者を対象とした転倒予防エクササイズについて、オタゴエクササイズプログラム

はじめに

内閣府発表の令和4年版高齢者白書によると65歳以上の要介護または要支援の認定者数は増加傾向にあり2019年度の調査では655万8千人となっています。

また、2009年から10年間で186万人増加しています。
年齢区分別によると65~74歳の要支援と要介護認定者数は23万1千人、49万3千人ですが、75歳以上になると161万3千人、421万9千人と急激に増加しています。
65歳以上の要介護または要支援認定を受けた原因については、男女全体で1位は認知症、2位は脳血管疾患、3位は高齢による衰弱、4位は転倒・骨折、5位は関節疾患となっています。

男性では、1位が脳血管疾患、2位が認知症、3位が高齢による衰弱、4位が心疾患、5位が転倒・骨折となっています。
女性では、1位が認知症、2位が転倒・骨折、3位が高齢による衰弱、4位が関節疾患、5位が脳血管疾患となっています。
特に65歳以上の女性における転倒・骨折が要介護または要支援認定の原因の上位となっています。

男女ともにそれらの認定を受けないように転倒および転倒における骨折の予防をしていけると良いかと思います。
転倒の要因は、筋力やバランス能力低下など色々あります。
転倒者の割合については、65歳以上の約3割が転倒経験をしていて、そのうち約15%が繰り返し転倒を経験していると報告があるようです。
要支援・要介護認定の原因の一つである転倒についての予防対策として行われている転倒予防エクササイズについて説明をしていきたいと思います。

転倒予防プログラム「オタゴエクササイズ」

運動する女性

オタゴエクササイズプログラムは、ニュージーランドのCampbellらによって考案されました。
特に80歳以上の高齢者や1年以内に転倒経験を有する高齢者に対する転倒予防に有効的なプログラムとして紹介されています。
このプログラムへの参加により、参加していないグループに比べて転倒回数および転倒によるケガの発生数が35%程度低下したと報告があります。

オタゴエクササイズは、ウォームアップ、筋力エクササイズ、バランスエクササイズ、歩行エクササイズで構成され、これらを週3回実施します。
歩行エクササイズだけ週2回実施します。
筋力とバランスエクササイズの強度は4段階に設定されています。
筋力やバランス能力の向上とともに段階的に強度を上げていきます。

ウォームアップ

ウォームアップの内容は、その場のウォーキングを1~2分、その後に頭部の左右への回旋、チン・イン(顎を水平後ろに引く)体幹の伸展、体幹の左右への回旋、足首の曲げ伸ばしの5種目をそれぞれ5回行います。

筋力エクササイズ

筋力エクササイズは、膝関節伸展エクササイズ(レッグエクステンション)、膝関節屈曲エクササイズ(レッグカール)、股関節外転エクササイズ(ヒップアブダクション)、足関節底屈エクササイズ(カーフレイズ)、足関節背屈エクササイズ(トゥレイズ)の5種目をそれぞれ8回~10回行います。
セット数は2セットまで増やすことにします。
セット間の休息時間は1~2分程度。

カーフレイズやトゥレイズは、最初は壁などに手を添えてバランスを取りながら行います。
筋力やバランス能力の向上とともに段階的に手の支えを少なくしていきます。
可能であれば、支えなしで行います。

レッグエクステンション、レッグカール、ヒップアブダクションは、足首にウェイトアンクルを付けて2~3秒で挙げて4~5秒で降ろしていきます。
負荷は、1~2kgから始めて筋力の向上とともに負荷を増加していきます。
状況に応じて負荷なしでも行います。
負荷設定は、個々の状況に応じて変えていきます。

バランスエクササイズ

膝の屈伸運動、後ろ方向への歩行、8の字歩行、横方向への歩行、タンデム(継ぎ脚)立位、タンデム歩行、片脚立位、かかと歩行、爪先歩行、後ろ向きかかと-爪先歩行、座位からの立ち上がり、階段昇降の12種目を行います。
筋力エクササイズとバランスエクササイズの時間は計30分程度となっています。

歩行エクササイズ

最初に歩行に関するアドバイスをします。
歩行時間を少しずつ伸ばして最長で30分程度を目標にします。
1回10分程度を3回行うのでも可としています。

オタゴエクササイズの有効性

オタゴエクササイズの有効性について検証したシステマティックレビューによるとこのプログラムを実施することによって、下肢の筋力や静的・動的バランス能力の向上、歩行能力や姿勢制御能力、認知機能の改善に有効であることが示されています。

また、転倒率の低下や転倒による障害の重症度を低下させたり、転倒に対する不安や恐怖心などの改善に対しても有効であることが報告されています。
このレビューで採択された34本の論文では、エクササイズの実施期間はおおむね12週間(最長で1年間)、エクササイズの実施頻度は週3回が比較的多くなっています。

高齢者の転倒予防に有効なエクササイズとは?

フレイルを有する高齢者の転倒に関する体力要素に対するエクササイズ効果について検証した内容から説明をいたします。
主に筋力や筋持久力、バランスや歩行エクササイズについてですが、結論として複合的なエクササイズが有効と示されています。
各エクササイズの実施によって転倒率が22~58%減少したと報告されているようです。

筋力エクササイズ

スクワット、レッグエクステンション、カーフレイズなどの多数のエクササイズを各種目8~12回、3セット。1RMの20~30%から始めて80%まで増加させる。
頻度は週に2~3回。

持久力エクササイズ

ウォーキングやトレッドミルでのウォーキング、踏み台昇降、階段昇降、固定式自転車による自転車こぎなどを行い、最初は5~15分程度から始めて15~30分程度まで行う。
強度は自覚的運動強度で楽であるからややきついの間から、ややきついからきついの間。

バランス能力向上エクササイズ

片脚立位、タンデム立位、左右への体重移動、ステップエクササイズ、ライトウォーキングなどの様々な刺激を得ることができるエクササイズを取り入れるのが良い。

複合的エクササイズ

上記の要素を含めた複合的エクササイズプログラムとして、エクササイズの量、強度、複雑さを段階的に増加させるのがいい。
転倒エクササイズの実施によって転倒率が最大42%減少したと報告されているようです。

世界転倒予防ガイドライン

メディカル

2022年に発表された世界転倒予防ガイドラインは、39カ国から39の科学領域や学術会などの専門家96名が中心になって作成されています。
高齢者の転倒や転倒予防などに関する数多くの内容についてグレード分けをしていますが、エクササイズの一部について少し紹介をします。

地域在住の高齢者を対象として転倒予防プログラムは、バランス能力向上や機能的エクササイズ(座位からの立ち上がりなど)を週3回以上実施し個々の能力に合わせて段階的に強度を上げながら12週間行うことが推奨されています。
また、エクササイズ効果をより高める為に長期継続して行うことが大切とされています。
エビデンスの質「高」

可能であれば太極拳および、または個々のレベルに合わせた筋力エクササイズを加えることを推奨。
内容は多様な要素を取り入れたプログラムであること。
エビデンスの質「中」

エクササイズの指導については転倒や転倒予防エクササイズに習熟した指導者が行うことやエクササイズによる効果が得られた後のエクササイズの更なる継続の重要性などについても説明をしています。

高齢者を対象とした転倒予防エクササイズは、今日までにオタゴエクササイズプログラムに関する報告が数多く見られ近年においてもレビュー報告されています。
転倒の要因は、様々あるので一つの体力要素を向上させるようなエクササイズよりも、複数の体力要素を向上させる複合的なエクササイズプログラムが望ましいとされています。
筋力や筋持久力、バランス能力や歩行能力に加えて体幹の筋力と安定性の向上など、これらのエクササイズを取り入れたプログラムを1回60分、週2~3回、12週間以上の実施によって転倒率の減少が期待することができます。

令和4年度に消費者庁から報告された資料によると65歳以上の不慮の事故による死亡原因は転倒・転落・墜落によるものが最も多く9509人となっています。
これは、交通事故による死因数の約4.5倍になります。
これらの統計から高齢者の転倒予防の重要性が分かるかと思います。

今後、高齢者を対象としたエクササイズ指導を行う指導者の方たちには、転倒予防のエクササイズの選択も考慮して頂ければと思います。