異物から身体を守る免疫について
免疫の歴史
免疫とは、疫(病気から免(免れる)という意味で、ウイルスや細菌などの異物から身体を守ってくれる仕組みのことです。
細菌やウイルスなどの病原体がもたらす多くの感染症は、これまで多くの命を奪ってきました。
かつては、神の罰や悪霊の仕業とされていて人々は祈りや儀式に頼っていました。
しかし、人類は長い歴史の中で感染症に立ち向かい克服する道を切り開いてきたのです。
その鍵となったのが免疫という体内のシステムになります。
長年にわたり今も多くの研究者が人々の感染症予防、治療の為に免疫の研究を続けています。
免疫学の父、エドワード・ジェンナー。
14世紀のヨーロッパで大流行したペストは多くの人の命を奪いました。
その中で奇跡的に助かった一部の人は、その後何度ペスト患者と接触しても二度とペストに罹ることがありませんでした。
当時は、この奇跡が神の力によるものだと考えられていたことから、ラテン語のim-munitas(免除)、つまり法王の課税(munitas)を免れる(im-)という意味の単語が用いられ、今日のimmunity(免疫)の語源になったと言われています。
長い年月を経てこの奇跡が免疫によるものであると証明されるのに大きな成果を上げたのが免疫の父と言われるエドワード・ジェンナーです。
彼は、乳搾りをする牛と接して牛痘に罹患した人は天然痘に罹患しないという農民間の言い伝えを元に、牛痘の一部を人に移植し天然痘予防に貢献しました。
この予防法によって深刻な被害にあったヨーロッパ諸国は救われました。
細菌学の父、ルイ・パスツールは、ジェンナーの考えた種痘法の効果は、分かっていたのですが、なぜ罹患しないのかという仕組みまでは明らかになっていませんでした。
しかし、年月を経てルイ・パスツールは、ニワトリコレラの実験によってその仕組みを証明しました。
2種類のニワトリを用意して新たに培養した菌を摂取させたところ、先に菌を接種していたニワトリは元気で、未接種のニワトリは感染によって死んでしまいました。
この実験によって毒性の弱まった菌を予め接種することで感染症が予防できることを証明し、のちのワクチンの開発に繋がりました。
日本人で免疫学に名を残しているのが新紙幣の肖像画にもなっている北里柴三郎です。
ドイツの学者エミール・フォン・ベーリングと共に破傷風菌を発見して難しいとされた破傷風菌の純粋培養を独自の装置で成功させました。
その後、血中で作られる抗体を発見して動物の血清中に含まれる抗体を利用して人間の感染症を予防する血清療法を開発しました。
異物の侵入を防ぐ免疫

異物は細菌やウイルス、花粉、ほこりなど私たちの周りに溢れています。
このような異物が体内に侵入してくると病気になる可能性があるので、生体には異物の侵入を防御する仕組みが備わっています。
その生体防御の第一の壁が皮膚や粘膜になります。
皮膚や粘膜の細胞は、上皮細胞と呼ばれ異物の侵入を防いでいます。
皮膚や粘膜は、異物を直接攻撃する様々な抗体物質を作ります。
例えば、汗や涙に含まれるリゾチームという酵素や皮膚や粘膜に存在するディフェンシンという抗体物質は、細菌の細胞膜を破壊する働きがあり異物を不活性化することができます。
汗や皮脂には、皮膚表面を弱酸性に保つ働きがあるので、細菌の繁殖を抑えることができます。
胃液はpH1.0の強酸性で食物と一緒に胃に入って来た細菌やウイルスなどの異物は存在することができません。
このような生体に備わっている防御機構によって私たちの健康が保たれています。
異物と自分を識別し攻撃・排除
免疫システムは異物の侵入から身体を守る為に自己(自分)と非自己(自分でないもの)を識別しています。
非自己である異物が体内に侵入すると免疫システムでは、異物の存在を認識し異物と自己を区別します。
異物には、抗原という表面に標的となる分子があり、免疫細胞はこの抗原を認識して異物を攻撃します。
免疫システムが抗原を認識すると免疫細胞が活性化して異物を攻撃し始めます。
また、生体には一度侵入してきた異物を記憶し、武器となる抗体を産生することで再度侵入してきた異物を速やかに攻撃して排除する抗原抗体反応という仕組みも備わっています。
感染症によっても免疫記憶は異なります。
麻疹や風疹などは、一度かかると終生免疫を獲得するので二度と罹ることはありません。
その一方でインフルエンザは毎年変異を繰り返しているので、以前罹っていたとしても型が異なると抗体が身体にないので対応をすることができません。
私たちの身体には、恒常性(ホメオスタシス)という外部環境が変化しても体温や血糖値、血圧などの内部環境を一定に保とうとする仕組みがあります。
免疫は、自律神経系、内分泌系と共に身体のバランスを維持する役割を担っています。
擦り傷をしても自然に治るのも免疫細胞が働いているからです。
その他、ストレスに強い身体を作ったり、細胞組織の老化・破壊による病気を予防したりするなど身体が些細なことで弱らないように常に免疫細胞が働いています。
自然免疫と獲得免疫

自然免疫とは、生まれた時から備わっている先天性の免疫システムです。
防御方法もシンプルで異物を食べることを専門として、主に骨髄系のマクロファージや樹状細胞、好中球が関与しています。
また、獲得免疫が上手く働くように情報を伝達する役割もしています。
獲得免疫は、後天的に身体に備わる免疫システムです。
自然免疫でマクロファージや樹状細胞が食べきることができなかったり、再度同じ異物が侵入してきたりした時に記憶した情報を使って効率よく異物を見つけ出します。
異物が持つ細かな特徴を区別することで、強烈な攻撃を仕掛けることができます。
T細胞は抗体を使った攻撃や感染細胞を壊す作戦を得意とします。
獲得免疫は、液性免疫と細胞性免疫に分類されます。
液性免疫の主役となるのはリンパ球系のB細胞で抗体を主体とした免疫システムです。
一方で細胞性免疫の主役はキラーT細胞と樹状細胞やマクロファージなどの貪食細胞です。
細胞性免疫は、主に病原体に感染した細胞を標的にしています。
免疫細胞の種類
●単球
・マクロファージ
侵入した異物を消化・分解(貪食)する。
・樹状細胞
T細胞に抗原情報を伝える。
貪食作用もある。
●顆粒球
・好中球
白血球の約50%以上を占める。
細胞内に殺傷や消化を助ける酵素が含まれていて、特に細菌などの病原菌を処理する。
・好塩基球
ヒスタミンを放出してアレルギー反応を引き起こすことがあるが、働きは明確に分かっていない。
・好酸球
アレルギーや寄生虫感染があると増殖する。
弱いながらも貪食作用もある
●リンパ球
・B細胞
異物が侵入してきた時に危険なものか判断して危険と判断した場合は形質細胞に分化し抗体を産生する。
異物が排除されるとメモリーB細胞として次の侵入に備える。
・ヘルパーT細胞
B細胞と共に異物が危険なものか判断したり、他の免疫細胞を活性化させたりする。
ヘルパーT細胞自体は、攻撃に直接関与しない。
・キラーT細胞
感染した細胞ごとに攻撃することができる、攻撃に特化した細胞。
アレルギー反応や炎症反応などを抑制する。
・制御性T細胞
免疫が過剰になったり自己に対して働いたりしないように制御しアレルギー反応や炎症反応などを抑制する。
・NK細胞
常に体内を巡回して外部の侵入者より、がん細胞など体内で生まれた異常細胞を破壊する能力に優れ初期攻撃をする。
私たちが普段何気なく生活している中で体内では様々な免疫細胞が働いています。
免疫システムのおかげで私たちの身体は、異物から守られています。
この免疫システムが上手く働くような生活を送ることが健康を維持するのに欠かせないと言えます。