糖質の摂取量は減っているのに糖尿病は急増している

糖質の摂取量は減っている、摂取栄養素の大きな変化

かつて糖尿病は贅沢病と言われ発症はごく稀な病気とされてきました。
ですが、近年では糖尿病患者は猛烈な勢いで増えてきています。
日本に限ってみれば、糖尿病が強く疑われる人は2012年の20歳以上で950万人、1960年の患者数は20万人でした。
単純に計算すれば、半世紀の間で50倍に増加したことになります。

また、この数字に糖尿病の可能性を否定できない人、いわゆる予備軍の人の数1000万人以上を加えると2000万人を超えてくることにもなります。
日本の人口が約1億2000万人ですので、約5人に1人が糖尿病対策をしなければいけないことになります。

なぜこれほどまでに糖尿病の人が増えてきたのでしょうか。
多くの人が、それは糖質の摂取量が増えているからだと思うかもしれません。
もちろん糖質の過剰摂取もあると思いますが、実はこの半世紀の間に日本人の糖質摂取量は4割も減っています。
この事実があるにも関わらず単純に糖質が犯人と決めつけるのは少し無理があるのではないでしょうか。

半世紀と言う短い期間に糖尿病患者が急激に増えた原因として、遺伝子・DNAの変化はまず考えられません。
実際に糖尿病を発症しやすい遺伝子はあります。
細胞内でエネルギーを生成するミトコンドリアのDNAが母体に変化するとその影響が次世代に現れる可能性はあります。

しかし、遺伝子が半世紀、たったの50年で著しく変化することはまず考えられないことです。
そう考えると生活環境の変化が原因ではないかと考えることができます。

1945年の終戦、その混乱が落ち着いた1960年代になると日本人の食事が大きく変化しました。
農山漁村の人口が多く、厳しい労働をしたところは摂取エネルギーも多かったですが、1970年をピークに人々の活動量が減るにつれて摂取エネルギーも減り続けています。

1960~2010年の50年間での摂取栄養素の変化には、3つの特徴があります。
・糖質の摂取量は4割減った
・脂質の摂取量は3割増えた
・タンパク質の摂取量はあまり変化がなかった

これらの変化に10~20年ほど遅れて糖尿病患者が急増したことになります。
ここで重要なことは、糖質の摂取量が減って脂質の摂取量が増えたと言うことです。

健康作りに取り組んだ町で糖尿病が急増

統計データイメージ

福岡県に福岡市と隣接した糟屋郡・久山町があります。
人口は、8000人程度の小さな町ですが、九州大学や中村学園大学と連携をして1961年から町民の健康増進に取り組み、半世紀以上にわたって町民の健康が観察されています。
この町では、亡くなった人のほとんどが解剖されて死因が調べられています。
死亡した原因は何か、その精確さについては久山町研究所として世界的にも高い評価を受けています。

また、毎年町民を対象に健康診断が行われ受信者は医療チームから健康作りのアドバイスを受けることができます。
福岡市の中村学園大学の協力を得て栄養調査も実施されています。
ですが、その久山町でさえ日本人の糖尿病増加に抗うことができませんでした。

食事で摂取したブドウ糖を体内でスムーズに処理できないことを糖代謝異常と言いますが、その糖代謝異常の人が1980年代以降よりも急激に増加しています。
糖代謝異常が認められた40歳以上の町民は、1974年の健診では男性14%、女性8%でしたが、1993年では男性30%、女性21%に跳ね上がりました。

2002年では、男性54%、女性35%にまで上がり、急増しただけでなく全国平均よりも遥かに多くなってしまいました。
全国平均では、男性22.8%、女性17.5%なので久山町では、全国平均よりも2倍以上多いことになります。

健康管理について手厚いケアを受けているはずの久山町の人たちが、なぜこんなにも糖代謝異常が多くなってしまったのでしょうか。
その原因について論争が起きたのです。

糖質制限派は「糖質摂取の増加が糖尿病を増やした

糖尿病の改善策として、糖質制限食の普及に努めている京都市の高雄病院理事長の江部康二医師がおられます。
江部医師は、自信のブログでこう述べています。

ドクター江部の糖尿病徒然日記より

中村学園の論文データ「久山町栄養素摂取比率の変遷」と「久山町の糖尿病罹患率の変遷」の清原先生の論文データ

久山町栄養摂取比率の変遷と糖尿病罹患率の変遷

1994年2004年
タンパク質摂取比率16.3%14.9%
脂質摂取比率26.2%24.5%
炭水化物摂取比率54.2%57.2%
1998年2002年
久山町男性糖尿病15.0%23.6%
久山町男性耐糖能異常42.2%59.9%

上記のデータでも明らかなように久山町でも全国と同じように脂質摂取比率が減って炭水化物摂取比率が増え糖尿病が増加しています。
従来の定説である「食生活の欧米化によって脂質が増えて炭水化物が減って糖尿病が増えた」と言うのは日本全国でも久山町においても間違いですね。

一般的に炭水化物とは、糖質と食物繊維の総称としていますが、実は国によって微妙に定義が異なり様々な研究の発表者によっても捉え方が異なります。
しかし、この論争では炭水化物と糖質を同じで捉えて問題はないと思います。
江部医師は、糖質摂取が増えた為に糖尿病が増加したと主張していると捉えることができます。
ネットで見る限り江部医師に同調する医師の意見が多く見られます。

久山町研究の総括者は糖質犯人説を否定

久山町研究の総括者である九州大学大学院医学研究院・清原裕教授は、同町の糖代謝異常者の急増についてこのように語っています。

久山町民の糖尿病診断は受診率が高く糖負荷試験を行っていて精確であり、国の国民健康・栄養調査の方が糖尿病者割合を過小評価している。
久山町で糖尿病が多いわけではない。
久山町の糖質摂取量は、全国平均よりも少なく糖質摂取量が多いから糖尿病が多いとする批判は当てはまらない。
糖尿病者の増加に伴い増えた栄養素は動物性脂肪であり、これが最大のリスクであると考える。

生活習慣指導が糖尿病を発症させた

悩むイメージ

福岡県の久山町から遠い山形県最上郡の舟形町でも40歳以上の住人を対象に糖尿病の有病率を調べた研究がありました。
この町での研究は、久山町と同じで受診率が高く、診断基準も同じです。
参加者は糖負荷試験を行っています。
ですが、この2つの町には大きな違いがあります。

久山町の住人が臨床栄養学界の専門家の指導を受け、国のガイドラインに従って熱心に生活習慣の改善に取り組んだのに対して、舟形町の住民は全国の自治体と同じようなごく一般的な指導しか受けていませんでした。
その結果、男性で比較をすると久山町では糖尿病の有病率が全国平均の倍以上とは対照的に舟形町の有病率は全国平均でした。

また、WHO(世界保健機関)の診断基準と耐糖能によって比較するとどちらも明らかに久山町の方が有病率が高いのです。

久山町では、1994年~2004年にかけて糖質摂取量がわずかですが増えています。
しかし、この町で糖尿病が急増したのは、それよりも以前の1983年~1993年にかけてです。

生活習慣病とされる糖尿病は、昨日今日の食事で直ぐに発症するわけではありません。
食事の変化が起こって糖尿病が増えるまで早くても数年、長ければ10年以上はかかることでしょう。
食事が変化してから発症するまで長いタイムラグが生じます。
なので久山町で糖尿病を急増させたのが糖質と疑うのは少し無理があるのではないでしょうか。

日本全体で糖質の摂取量が減って糖尿病が増えたのと同じく、この町でも糖質の摂取量が減って糖尿病が増えたのです。
このような事実があるにも関わらず、あたかも糖質が真犯人とされています。

糖質摂取と糖尿病が全く関係ないと言うわけではありませんが、本当に糖質が原因なのかと言うことなのです。
本当の原因は糖質以外にある可能性も考える必要があるのではないでしょうか。

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