疲労に打ち勝つ筋肉へ|筋持久力のメカニズムと効果的なトレーニングについて
スポーツのパフォーマンスを最大限に引き出すためには、筋力と筋持久力という二つの重要な能力を理解し、適切に鍛えることが不可欠です。
多くの人が分かりやすい「最大筋力」に目を奪われがちだと思いますが、実際には「筋持久力」こそが、競技中に高いパフォーマンスを維持し続けるのに重要な要素です。
筋持久力とは、特定の動作や力をどのくらい長く維持できるか、あるいは繰り返し発揮できるかという能力のことで、疲労によって筋力が低下していく速さを決めます。
筋持久力の奥深さ|静的と動的、その違いと相関性
筋持久力は、その発揮様式によって大きく二つのタイプに分類されます。
- 静的筋持久力
これは、ある特定の姿勢や筋力を一定時間維持し続ける能力を指します。
例えば、ヨガのポーズを長く保ったり、壁に背中をつけてスクワットの姿勢を維持したりする時間を測ることで評価できます。
日常動作では、重い荷物を腕で持ち続けるような場面でこの能力が使われます。 - 動的筋持久力
一定の動作や負荷を、決められたリズムで繰り返し行う能力がこれに当たります。
例えば、腕立て伏せを何回できるか、腹筋運動を連続で何回こなせるか、あるいはバーベルを一定のリズムで何回持ち上げられるかなどがこのタイプに分類されます。
これら二つの筋持久力は、完全に独立しているわけではありません。
一般的に、動的筋持久力が高い人は、静的筋持久力も高い傾向にあります。
これは、筋肉が持続的に力を発揮するために必要な生理学的メカニズムが、両者にある程度の共通性を持っているからと考えられます。
筋力低下の速さで測る筋持久力|疲労耐性の本質
どのようなアスリートであっても、最大の筋力を繰り返し発揮し続ければ、やがて筋力は必ず低下していきます。
これは筋肉が疲労していく自然なプロセスです。
ですが、この筋力の落ち方が速いか遅いかという点が、実は筋持久力の高さを評価する上で非常に重要な指標となります。
筋力の低下が急速であれば、それは筋持久力が不足していることを示します。
対照的に、筋力の低下が緩やかであれば、そのアスリートは高い筋持久力、つまり優れた疲労耐性を持っていると判断できます。
さらに、ある一定の速度で動く物体に対して最大の力を発揮する際、その発揮した力が時間とともにどれくらいの速さで低下していくか、あるいはパワーの減少率がどの程度かといった点も、筋持久力を測る上で重要な評価軸となります。
例えば、短距離走の終盤でスピードが落ちにくい選手は、筋持久力、特にスプリント能力の持続性に優れていると言えます。
競技特性に合わせた筋持久力の最適化|パーソナライズされたトレーニングの重要性

筋持久力のトレーニング効果を最大限に引き出し、正確に評価するためには、そのアスリートが取り組んでいる競技の特性に合わせることが極めて重要です。
一律のトレーニングや評価方法では、真のパフォーマンス向上には繋がりません。
例えば、ラグビー選手のように、試合中にタックルやスクラムといった強い力を何度も繰り返し発揮する必要がある競技では、比較的大きな負荷を用いた筋持久力を評価し、鍛えることが求められます。
実際に行われた実験では、ラグビー選手が最大努力による筋力発揮を50回行った際の筋力低下率を測定した結果、筋持久力トレーニングを行った後の方が、筋力低下が有意に軽減されることが確認されました。
これは、トレーニングによって筋持久力、ひいては疲労耐性が向上したことを明確に示しています。
一方で、マラソンや長距離水泳、サイクリングといった、低強度で非常に多くの回数の動作が長時間にわたって求められる競技においては、100回、200回といった、より多くの反復回数で持久力を測定し、トレーニング効果を評価する方が適切です。
競技の特性を理解し、それに合致した評価基準を用いることで、より実践的な筋持久力向上に繋げることができます。
動的筋持久力評価の落とし穴|相対負荷の重要性
動的筋持久力を評価する際に、特に注意すべき点が「相対的な負荷を常に同じに保つ」ということです。
例えば、自重で行う腕立て伏せの場合、個人の体重という負荷は基本的に変わらないため、トレーニングによって筋力が向上すると、同じ腕立て伏せでも相対的な負荷は軽くなり、できる回数が増加します。
しかし、この回数の増加は、必ずしも筋持久力が増したことを意味しません。
多くの場合、単純に筋力が向上した結果として、同じ負荷が相対的に軽くなったために回数が増えただけ、という可能性が高くなります。
筋持久力のトレーニング効果を正確に測定し、真の向上を評価するためには、常に相対的に同じ荷重がかかるように調整するか、あるいは、常に最大筋力を出すという条件下で動作を繰り返すなどの工夫が必要です。
例えば、ベンチプレスで筋持久力を測る場合、常に「自分の最大挙上重量の〇〇%」という形で負荷を設定し、それを何回繰り返せるかを測定することで、より正確な評価が可能になります。
筋持久力向上のメカニズム|毛細血管の増加とトレーニングの最適な負荷
筋持久力が向上する具体的なメカニズムは完全に解明されているわけではありませんが、現在の科学的知見に基づくと、いくつかの重要な変化が筋肉内で起こることが分かっています。
動的筋持久力のトレーニング効果を測定する際によく用いられる指標として、最大筋力の約30%の負荷で何回挙上できるか、というものが挙げられます。
興味深い研究結果として、動的筋持久力を高めるためには、この30%の負荷よりもわずかに軽い20〜25%の負荷で、もう動かせなくなるまで(挙上不能になるまで)繰り返しトレーニングを行う方が、より効果的であることが示されています。
このような低負荷・高回数のトレーニングを継続することで、筋肉の持久能力が高まり、結果として30%の負荷で評価した際の反復回数が増加します。
つまり、トレーニング効果を最大化するには、ある程度の軽い負荷で、限界まで繰り返し動作を行うことが有効であると言えます。
ただし、負荷が軽すぎるとトレーニング効果は著しく低下します。
例えば、最大筋力の20%以下の強度では、ほぼ無限に繰り返せるような日常的な負荷となり、筋肉に十分なストレスや刺激を与えることができません。
これでは、筋持久力の向上を促すための生理学的適応が起こりにくくなります。
軽すぎず、かつ重すぎない「最適な負荷」を見極めることは、効果的な筋持久力トレーニングにおいて非常に重要ですが、最大筋力の25〜30%を目安とすることで、多くの人にとって間違いのないトレーニング負荷設定が可能になります。
では、筋持久力が高まると、私たちの筋肉内部では具体的に何が起こるのでしょうか。
最も顕著な生理学的適応の一つは、筋肉内の毛細血管の増加です。
筋持久力トレーニングを継続することで、筋肉の細胞を取り囲むように張り巡らされた毛細血管のネットワークが発達し、密度が高まります。
この毛細血管の増加により、運動中に筋肉へ送られる血液の量が増大します。
結果として、筋肉はより多くの酸素や栄養素を効率的に受け取れるようになり、同時に疲労の原因となる代謝副産物(乳酸など)を素早く除去できるようになります。
このような効率的な血液供給と代謝機能の改善が、筋持久力の大幅な向上に直結します。
まとめ|スポーツパフォーマンスを最大化する筋持久力
スポーツにおいて、単に強い筋力を発揮できるだけでなく、その筋力をいかに長く、または繰り返し発揮できるかが、実際のパフォーマンスを大きく左右します。
この能力こそが筋持久力であり、疲労による筋力低下の速さがその高さを測る重要な指標となります。
筋持久力には、一定の姿勢を保つ「静的筋持久力」と、動作を繰り返す「動的筋持久力」の2種類がありますが、両者には相関関係があります。
筋持久力を向上させるトレーニングは、競技特性に合わせることが不可欠です。
例えば、高強度を繰り返すラグビー選手と、低強度で長時間活動するマラソンランナーでは、適切なトレーニング方法や評価基準が異なります。
特に動的筋持久力の評価では、常に相対的な負荷を一定に保つことで、筋力向上による見かけの回数増加ではなく、真の持久力向上を測定することが重要です。
効果的な筋持久力トレーニングの目安としては、最大筋力の25〜30%程度の軽い負荷で、限界まで反復することが推奨されます。
これによって、筋肉内の毛細血管が増加し、血流量が向上。結果として、筋肉への酸素や栄養供給が改善されて、疲労物質の除去も促進されることで、持久力が向上します。
筋力と筋持久力。どちらか一方に偏ることなく、バランス良く鍛えることで、競技における能力を最大限に引き出すことができます。










