筋肉痛は筋繊維ではなく筋原線維が損傷、筋肉痛の時にトレーニングをしても悪化しないかも
筋肉の痛み、運動誘発性筋損傷
久々に運動をした後や筋力トレーニングのような負荷の高い運動をした後は、筋肉の痛み、いわゆる筋肉痛が起こることがよくあるかと思います。
ほとんどの人は筋肉痛を経験したことがあるのではないでしょうか。
筋肉の痛みである筋肉痛は、学術的に言うと運動誘発性筋損傷と言います。
筋肉痛が起こることで発揮できる力である最大筋力や関節を動かせる範囲である関節可動域の低下が起こります。
一般的な筋肉痛は遅発性筋痛と言い、周径囲の増大が起こり筋原線維ではサルコメア形状が破錠することが報告されています。
筋肉痛と言うと筋繊維の損傷と説明をされることが多いと思いますが、正確には筋繊維ではなく筋原線維の損傷になります。
実は筋繊維のレベルでは、損傷自体ほとんど確認されないのです。
一般的に言う筋肉とは、骨格筋と呼ばれる筋肉になります。
骨格筋は筋繊維の集合体で構成されていて筋繊維は筋原線維の集合体で構成されています。
これらの集合体は、プロテオグリカンやコラーゲンなどの細胞外マトリックスによって包まれることで安定をしています。
運動で損傷するのは筋原線維と結合組織
筋力トレーニングのような激しい運動は筋肉を損傷させます。
激しい運動をした時に筋肉の損傷が起こりますが、損傷しているのは筋繊維ではなく筋原線維になります。
2010年のノルウェーの研究によると膝伸展筋群(大腿四頭筋)を対象に10回×30セットのエキセントリック運動をさせた結果、筋原線維が一部または中程度に損傷することが分かっているようです。
運動直後は30%程度の損傷だったのに対して96時間後には50%近くの筋原線維が損傷していました。
筋原線維レベルではなく筋繊維レベルで見てみると、運動直後の筋繊維損傷は1%未満であったことも報告されています。
ダンベルを下ろす動作の伸張性筋収縮であるエキセントリック運動は筋肉が損傷しやすい運動様式ですが、これはあくまで筋原線維レベルで起こっていると言うことになります。
また、筋繊維を取り囲む組織、コラーゲンなどの軟性の結合組織や筋細胞などが損傷したことで炎症反応も起こっています。
激しい運動による筋損傷は、筋繊維ではなくて筋原線維レベルで起こっていて、他に結合組織でも生じています。
筋肉痛は、筋原線維と結合組織が損傷して起こっているのです。
筋肉痛発症時に運動をしても悪化はしないかもしれない
筋肉痛が発生すると最大筋力や関節可動域の低下が見られます。
これによってスポーツパフォーマンスは一時的に著しく低下してしまいます。
筋肉痛は一般的には、治るまで激しい運動は控えた方が良いと言う考えがあります。
では、筋肉痛の時にさらにエキセントリック運動のような筋肉を損傷させる運動をした場合、さらに悪化してしまうのでしょうか。
これを検証したこんな研究があります。
肘関節屈曲筋群を対象に最大筋力の50%で10回×3セットのエキセントリック運動を行った後に、初日の運動から2日後と4日後に再度同じ運動を行いました。
その結果、筋肉痛の時にエキセントリック運動をしても最大筋力の低下や筋肉痛がさらに悪化することはありませんでした。
また、一度筋肉痛が発生した腕に再度エキセントリック運動をした群としない群に分けて、4週間の休息期間を取って、4週間後に再び同じ負荷でエキセントリック運動を行いました。
これによると1周目に筋肉痛が発生した腕にエキセントリック運動をした群の方が、4週目に発生した遅発性筋肉痛の度合いが顕著に低下することが分かったそうです。
つまり遅発性筋肉痛が起こりにくくなると言うことです。
このことから、筋肉痛の時に運動を行ってもさらに悪化することはなく、むしろ次に行うエキセントリック運動による筋肉痛を抑えることに繋がると言えそうです。
筋肉痛であっても運動を制限する必要はなく、むしろ行った方が筋肉痛に対しての耐性が向上する可能性があることになります。
ですが、これはあくまで単関節運動での結果です。
運動中の速度もコントロールされた極めて特殊な運動での一つの結果に過ぎません。
実際のスポーツの現場で行うジャンプやダッシュ、アジリティなどを含めた高負荷運動であっても同じような効果が出るのかどうかは分かりません。
もちろん筋肉痛の度合いにもよるとも思います。
筋肉痛があまりにも酷い場合は、痛みがある程度軽減するまで休めた方が良いとも思います。
筋肉痛は、筋力や関節可動域が低下して結合組織も炎症している状態です。
このような状態でスポーツやトレーニングをするのは、怪我のリスクを高めてしまうことに繋がりますので、怪我のリスクと言う観点からすると万全な状態で行った方が良いことは明らかです。
大事な試合前は、筋肉痛が起こらないように調整をして身体が万全な状態で挑むようにすることが大切です。