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筋肉が熱を作る!運動をしなくても熱を発生させるUCP、サルコリピン

運動をしなくても熱を発生させるタンパク質

熱に関する研究に大きな影響を与えたのがUCP(ミトコンドリア脱共役タンパク質)と言うものです。

UCPは、細胞のミトコンドリアの中に存在しています。
脂肪のエネルギーを分解する反応系とATP(アデノシン三リン酸)を合成するシステムとの繋がりをカットしてしまうと言う特徴があります。

では、これで一体何が起こるのかと言うと、脂肪を分解して得られたエネルギーがATPを作ることなく熱になって逃げていくことになります。
つまり、運動をしなくても身体から熱が発生すると言うことです。

熱生産と聞くと褐色脂肪細胞を思い浮かべる人も多いかもしれません。
褐色脂肪細胞の中にあるUCPは、最初に見つかったのでUCP1と言います。

UCPの遺伝子には、多型があり個体差があります。

人間の場合、正常なUCP1を問題なく作ることができる人と、作れない人がいることが分かっているようです。
しかも、作れない人が日本人では約20%もいるとされています。
正常なUCP1が作れないと熱を作る能力が低くなります。
つまり、低体温や冷え性と言った症状になりやすくなってしまうと言えます。

また、熱を作ることができる分だけ全体のエネルギー生産も落ちてきます。
1日の消費カロリーが100kcalほど少なくなるとされています。
たかが100kcalと思うかもしれませんが、10日なら1000kcalにもなります。
1年365日なら36500kcalにもなり体脂肪に換算すると5kg程度に相当します。
同じような活動をしていてもUCP1を作れない人に比べて5kg太ってしまうことになるのです。

正常なUCP1を作れない人は、太りやすい体質とも言えます。
現在では、肥満外来で正常なUCP1を作れる遺伝子を持っているかどうかを調べてもらえるようです。
もし、UCP1を上手く作れない遺伝子のタイプだと食生活を見直したり運動の習慣をつけたりする必要があるでしょう。

熱生産の主役は筋肉

筋肉

その後、UCPは筋肉にもあることが分かりました。
これは3番目に見つかったUCPなのでUCP3と呼ばれ、筋肉の活動なしで熱を生み出すことができます。
1g当たりの熱生産量で比較をしてみると筋肉は、褐色脂肪細胞よりも小さくなりますが、筋肉の量が褐色脂肪細胞よりも遥かに多いので全体で見るとたくさんの熱を発生させています。

UCP3が発見されてから褐色脂肪細胞よりも筋肉への注目が高くなってきているのです。

UCP3は、遅筋繊維よりも速筋繊維に多く含まれていることが分かっています。
ただ、速筋繊維の中でもタイプⅡxにはミトコンドリアが少ないのでタイプⅡaが熱生産の主役だと言うことになってきました。

遅筋繊維にミトコンドリアは多く含まれていますが、UCP3が少ないので熱の生産は多くはありません。
遅筋繊維の特徴は、小さな力を持続的に長時間発揮しなければいけません。
なので無駄な熱の生産をしてしまうとエネルギーの浪費に繋がってしまうと言うことでしょう。

日常生活で重要な働きをしている遅筋繊維は、燃費がよくエコに作られていると言えます。

UCPを超える新発見!サルコリピン

メディカル

筋力トレーニングをすると速筋繊維の中でタイプⅡxからタイプⅡaの移行が起こって、タイプⅡaの割合が高くなっていきます。
そうなると何もしていなくても熱の生産は高くなるのでエネルギーが消費しやすい状態になっていくと考えることができます。

反対に長時間の有酸素運動、持久的なトレーニングをたくさんしている人は、UCP3の活性が極めて低くなってしまうことが分かっています。
長時間の運動に対応をする為に無駄なエネルギーを消費しないように燃費の良い筋肉にしていくと言うことです。

このことから有酸素運動をしてやせた人は、その時点で運動をやめてしまうと太りやすくなってしまう可能性があります。
有酸素運動だけでやせた人は、リバウンドしやすいと言えるのです。
マラソンランナーが練習をやめた途端に太ってしまうケースがありますが。このような仕組みが大きく関連していると言うことかと思います。

ここまでのことは2000年代までに分かったことです。
熱生産に関しては、UCPを中心として、今後も様々な研究が進んでいくと考えられていましが、数年前に新発見がありました。

科学誌「ネイチャー・メディスン」に発表され専門家の間で話題になったタンパク質があります。
それがサルコリピンと言われるタンパク質です。

サルコリピンの働きは?

サルコリピンが発見されたのは1993年ですが、その機能が明らかになったのが2012年です。
これは、これまで話題になっていた褐色脂肪細胞や筋肉の中にあるUCPを超えてきそうです。

サルコリピンの機能は、まだ十分に解明されているわけではありませんが、これもUCPと同様に熱生産の原動力となっています。

筋肉の中には、筋小胞体と言うカルシウムをため込んでいる組織があります。
筋肉が収縮するとカルシウムが排出されて、弛緩する時にカルシウムが戻ります。
サルコリピンは、筋小胞体からカルシウムを外に漏らしてしまう働きをします。

カルシウムを筋小胞体にくみ上げるタンパク質は、ATPを分解してそのエネルギーを利用します。
サルコリピンは、このカルシウムをくみ上げるタンパク質であるカルシウムポンプに結合をして、カルシウムをくみ上げる働きだけを阻害します。
カルシウムポンプが空回りすることでATPのエネルギーを全て熱に変えているのです。

これはネズミを使った実験で証明されました。

正常なネズミとサルコリピンを作る遺伝子を壊してサルコリピンを作れない状態にしたネズミを気温4℃の部屋に入れて、サーモグラフィーで身体の温度を観察しました。
すると、正常なネズミは数十分から1時間経っても熱を出していました。
身体の表面は冷えますが、身体の中心部の温度を維持されています。

その一方で、サルコリピンを作れないネズミは、身体の中心部がどんどん冷えていき、動かなくなってしまったのです。
筋肉の量は全く同じで、サルコリピンが作れるか作れないかで、体温が低くなってしまうと言うことです。
これはつまり、冷え性になってしまうと言えます。

冷え性は筋力トレーニングで改善される

バーベルスクワットをする女性

これまで熱生産において重要な役割を担っていると思われていた褐色脂肪細胞でも同じ実験が行われています。
手術によって正常なネズミから褐色脂肪細胞だけを取り除いて、同じ4℃の部屋に入れてみると特に大きな問題は起こりませんでした。
褐色脂肪細胞がなくても筋肉が熱を生産してくれるので身体の中心部の温度は下がらないのです。
しかし、褐色脂肪細胞を残しておいてもサルコリピンが作れないネズミの場合は、どんどん体温が下がっていきます。

この実験から寒い環境で体温を作る能力は、褐色脂肪細胞ではなく筋肉がメインだと言うことが分かります。
そして、筋肉が熱を生み出す原動力がサルコリピンと言うことが分かりました。
つまり、サルコリピンを増やせば熱を作りやすい身体になり、寒さに強い体質になっていくと言えます。

サルコリピンを増やす方法は現段階では分かっていませんが、サルコリピンは筋肉の中にあるので、その全体量は筋肉量に比例すると考えることができます。

筋肉が増えれば、熱を生産し身体を温める能力が高くなり、筋肉が減ってしまうと熱を作れる能力が低くなってしまい寒さに弱くなっていくことでしょう。

ですので、冷え性でお悩みの方は筋力トレーニングをして筋肉を増やすことで改善させることができると考えられます。
男性よりも女性の方が冷え性の方が多いのも筋肉量が少ないからだとされています。

筋力トレーニングは、冷え性の改善に効果的と言えそうです。