筋肥大に適した動作速度とは?8秒の範囲なら差はない|低負荷であればゆっくりが効果的
レジスタンストレーニングによって筋肥大を最大限に引き起こす為には、短縮性筋収縮および伸張性筋収縮においてどの程度の動作速度が適切なのでしょうか。
一般的には、ウエイトを下げる局面であるエキセントリック動作をゆっくり行うと効果的とされています。
アメリカスポーツ医学学会(ACSM)では、短縮性筋収縮であるコンセントリック局面および伸張性筋収縮であるエキセントリック局面ともにSlow(2~3秒)からModerate(1~2秒)にて実施することを推奨しています。(Ratamess,2009)。
しかし、このガイドラインの科学的根拠となる論文数は実は少ないです。
動作速度のEvidence categoryは3段階評価の中で最も低い「C」評価となっています。
BompaとBuzzichelli(2015)は筋肥大を目的とした場合、コンセントリック局面においては低速度(2~3秒)、エキセントリック局面ではさらに遅い速度(3~5秒)で実施することを推奨しています。
しかし、エキセントリック局面をコンセントリック局面よりも低速度にて実施した方が筋肥大するという科学的根拠となる論文は彼らの書籍の中では明確に示されていません。
レジスタンストレーニングにおける動作速度が筋肥大に与える影響についてSchoenfeldら(2015)は、システマティックレビューから0.5 秒から8秒の動作時間の範囲であれば筋肥大の程度に大きな差はないと結論づけています。
目次
一般的なトレーニングの場合1~3秒程度であれば効果に差はない
一般的なウエイトトレーニングの負荷である10RM程度であれば、動作速度が1~3秒程度であれば筋肥大効果に大きな違いがないことが示されているようです。
これは、若齢者の筋肥大を目的としたレジスタンストレーニングの動作速度の論文についてレビューした結果によるものです。
50%1RM程度のトレーニング強度の場合であれば、短縮性筋収縮であるコンセントリック局面および伸張性筋収縮であるエキセントリック局面それぞれ1秒で実施するよりも3秒以上かけてゆっくりとした動作速度でトレーニングをした方が筋肥大に効果的であることが示さています。
その一方で、筋肥大を目的としたトレーニング強度(67%~85%1RM)を用いた場合は、コンセントリック局面とエキセントリック局面の両方を遅くする方法、コンセントリック局面のみを速くする方法ともに筋肥大の程度に有意な差が見られた論文はないようです。
各局面において1~3秒程度の動作時間であれば筋肥大に大きな違いがないことが示されています。
エキセントリック局面のみを遅くする方法については、一致した見解が得られていなく様々なトレーニング条件を含めて更なる検証が必要であるとされています。
トレーニング動作全体の動作速度が筋肥大に与える影響
TanimotoとIshii(2006)は、トレーニング習慣のない成人男性を対象にレッグエクステンションを週3回12週間実施した際の大腿四頭筋の筋横断面積を検討。
トレーニングは50%1RMの強度にて高速度群(8名)は8回3セット、低速度群(8名)は持ち上がらなくなるまで反復するセットを3セット実施。
高速度群はコンセントリック局面およびエキセントリック局面をそれぞれ1秒にて実施し、低速度群はそれぞれ3秒かけて、かつ動作切り返し局面において1秒保持するトレーニングを実施。
その結果、低速度群の横断面積が5.4%有意に増加、高速度群は有意な変化はみられなかった。
また、Usuiら(2016)はトレーニング習慣のない成人男性を対象にパラレルスクワットを週3回8週間継続した際の大腿前面の筋厚を測定。
トレーニング強度はTanimotoとIshii(2006)と同様の50%1RMであった。
高速度群(コンセントリック局面1秒、エキセントリック局面1秒)は10回を3セット、低速度群(コンセントリック局面3秒、エキセントリック局面3秒)は持ち上がらなくなるまで行うセットを3セット実施。
その結果、TanimotoとIshii(2006)と同様に低速度群の筋厚が有意に増加し(6~10%)、高速度群は有意な変化はみられなかった。
TanimotoとIshii,(2006)およびUsuiら(2016)は、50%1RMを用いてトレーニングを実施しており動作速度が高速度の群においては有意な筋サイズの増加は観察されていない。
参考:若齢者のレジスタンストレーニングにおける動作速度が筋肥大に与える影響
この結果から高速度群は筋肥大を起こす為に十分なトレーニング刺激には達していなかったと考えられていまます。
低速度群は、トレーニング強度が50%1RMにも関わらず筋肥大がみられています。
これは動作速度を遅くすることで筋肉に負荷がかかる時間が長くなり、トレーニング負荷量が増えた結果として筋肉を肥大させるトレーニング刺激に達したと考えることができます。
このことからトレーニング強度が低い場合、動作速度を遅くすることによって筋肥大を起こすことができると言えます。
一方、筋肥大を目的とした一般的な負荷67%~85%1RMの強度では全体の動作速度を遅くした場合、高速度群と比べて筋肥大の程度が大きくなる訳ではないことが示されているようです。
低負荷であればゆっくり、高負荷であれば動作速度による差はない
これまでの様々な研究報告、いわゆるエビデンスによると筋肥大を起こす最適な動作速度は、低負荷であればゆっくり、高負荷であれば速度による差はないと言えそうです。
エキセントリック局面をゆっくりすると筋損傷が起きて筋肥大に効果的とされていますが、信頼できるエビデンスがあるわけではないようです。
エビデンスをベースに考えれば1回の動作は8秒以内であれば、筋肥大効果に差はないと結論になっています。
ただ、エビデンスは後から証明されていくものかと思いますし、エビデンスが覆ることも普通にあります。
エビデンスが全てではないということも忘れてはいけません。
あくまで現時点で証明されていることに過ぎませんので、参考程度にしておくと良いのではないでしょうか。
特にトレーニングに関しては、エビデンスなんて皆無に等しいのではと思っています。
現時点で証明されている科学的根拠よりも今までの経験則の方が大事ではないかとも思います。
それに個人個人で身体は違うのでトレーニングに対しての反応も当然違います。
そもそも万人に当てはまる最適なトレーニングというものは存在しないと思います。
一人一人遺伝子が違うのですから反応も個人によって違うからです。
色々なトレーニングを試して自分に合った方法を試行錯誤していくのがいいのではないでしょうか。
参考:若齢者のレジスタンストレーニングにおける動作速度が筋肥大に与える影響