トレーニングの筋肥大効果は重さ(強度)ではなく、総負荷量で決まる!
筋肥大はバーベルの重さで決まらない
筋肉を大きくする為に、日々重いバーベルやダンベルを使った、いわゆる高強度トレーニングを継続している人は多いのではないでしょうか。
未だに筋肥大をさせるには、高強度トレーニングをしないといけないと考えている人もとても多いかと思います。
ですが、現代のスポーツ科学では低強度のトレーニングでも高強度のトレーニングと同等の効果が出ることが分かっています。
筋肥大の効果は、トレーニングの容量である総負荷量によって決定されるのです。
総負荷量が同じであれば、低強度でも高強度でも同じ効果になると言うことです。
この事実は、日々大変な思いをしてトレーニングをする人にとっては嬉しいことかもしれません。
総負荷量とはトレーニング容量であり、筋肉がどれくらいの仕事をしたのかと言うことです。
総負荷量は、トレーニング強度(重量)×回数×セット数によって決まるとされています。
この根拠となるエビデンスの一つになったのが次の報告です。
2010年、カナダにあるマクマスター大学のバードらはトレーニング経験者を2つのグループに分け、1RMの70%以上の強度でのレッグエクステンションを行いました。
一方のグループは1セット、もう一方のグループは3セットをそれぞれ疲労困憊まで行いました。
終了後、両グループの平均負荷量を測定したところ、1セットのグループの平均総負荷量は942kg、3セットのグループは2184kgでした。
さらにトレーニング後のタンパク質の合成率を測定すると、総負荷量の高かった3セットのグループが有意に増加を示しました。
この結果から強度が同じでもセット数を多く行い、総負荷量を高めることで筋肥大の効果が増大する可能性があると言うことが示されました。
低強度のトレーニングの場合も総負荷量を高めれば筋肥大効果が高くなるのかと言うことが検証されています。
今度は、1RMの90%の高強度レッグエクステンションを行うグループ、同30%の低強度で行うグループに分けて、それぞれ疲労困憊まで行いました。
その結果、高強度グループのトレーニング回数は24回であり総負荷量は高強度トレーニング710kgに対して低強度は1073kgでした。
筋タンパク質の合成率では、総負荷量の大きな低強度グループがより高い増加を示しました。
この報告によって低強度トレーニングでも回数を多くこなし、総負荷量を高めることで高強度と同等の筋肥大効果を得ることができることが示されました。
このことから筋肉を大きく肥大させるのは、強度ではなく総負荷量を高くすることが重要と言うことが言えるのです。
総負荷量は長期的なトレーニングにも影響を及ぼす
上記の報告は、筋タンパク質の合成率や筋肥大の短期的な効果を調べたものです。
しかし、トレーニングをする人にとって最も重要なことは、継続的なトレーニングによる長期的な効果です。
2012年マクマスター大学のミッチェルらは、トレーニング未経験者を対象にレッグエクステンションを1RMの80%で行う高強度グループと同30%で行う低強度グループに分けて検証をしました。
両グループともの1日3セットで週3回、疲労困憊になるまでトレーニングを行い、これを10週間継続しました。
その結果、両グループともに大腿四頭筋の筋肉量は増加したものの、グループ間で筋肉量の有意な差は認められませんでした。
2016年同大学のマートンらが行った複数の関節に負荷をかける多関節トレーニングの研究でも同様の結果が出ています。
長期的な筋肥大の効果においても低強度トレーニングでも回数を増やして総負荷量を高めれば高強度と同等の効果が得られることが証明されました。
そして、2017年にはこれらの報告をまとめて解析したメタアナリシスが報告され、低強度でも高強度でも総負荷量を高めれば筋肥大の効果は同等であると言うことが示されています。
現在は、これらの研究報告が「筋肥大の効果は総負荷量によって決まる」と言う新しい筋力トレーニングのエビデンスとなっています。
筋肥大をさせたいなら総負荷量を高めることが重要であると言うことです。
筋肉を肥大させたいなら総負荷量を高めよう
サイズの原理では、低強度トレーニングでは小さな運動単位が筋収縮に動員されて、大きな運動単位は動員されないとしていました。
と言うことは、全ての筋繊維を収縮させるには高強度トレーニングが必要になると考えられるので、低強度トレーニングが高強度トレーニングと同等の効果があると言う説には疑問が残るかもしれません。
この疑問に対しては、ノルウェー科学技術大学のウェスタッドらによる報告があります。
ウェスタッドは、僧帽筋に低強度の負荷を持続的に与えて筋疲労を生じさせると小さな運動単位のみならず、次第に大きな運動単位も動員されていく「運動単位のサイクル」が生じることを報告しました。
つまり、低強度でも回数を多くして疲労困憊になるまで行えば、小さな運動単位の働きを助けるように大きな運動単位が動員されると言うことです。
また、イギリスのサウサンプトン・ソレント大学のフィッシャーらは、運動単位のサイクルに関するメカニズムをまとめてレビューし、低強度のトレーニングでも疲労困憊まで行うことで全ての筋繊維を収縮させることが可能となり高強度と同等の筋肥大効果を得られるとし、ウェスタッドらの示唆を後押ししています。
現代のスポーツ科学では「筋肉を大きくさせたいなら高強度トレーニングをしなくてはいけない」から「筋肉を大きくさせたいならトレーニングの総負荷量を高めよう」になったのです。
トレーニング強度はもちろん筋肥大に重要な要素の一つであることは確かですが、絶対に必要なことではないと言うことです。
強度よりも総負荷量を増やすことを考えることが最も重要なことになるのです。
現在では、総負荷量を高める為の様々なトレーニング因子が検証されています。