トレーニング・フィットネス

アスリートのパフォーマンスを最大化!腸内環境と筋発達の意外な関係性

はじめに

日々の厳しいトレーニングに励むアスリートにとって、食事管理はパフォーマンス向上のカギです。
特に筋肉をつけたいアスリートやボディビルダーは、高タンパク質食を意識的に摂取していますよね。
しかし、その食事が腸内環境に悪影響を与え、結果として筋発達を妨げている可能性があることをご存知でしょうか?

この記事では、アスリートの腸内環境がなぜ重要なのか、そしてタンパク質やプロテイン、脂質、食物繊維といった栄養素が腸にどう影響するのかを深掘りします。
パフォーマンスをさらに高めるための腸活術を、是非参考にしてください。

1. 過剰なタンパク質摂取が腸内環境を悪化させる可能性

「筋肉をつけたいから、タンパク質をたくさん摂る!」これはアスリートにとって当然の考え方だと思います。
しかし、摂取する量や質によっては、腸内環境に思わぬ影響を与えてしまうことがあります。

ボディビルダーとマラソンランナーの腸内環境を比較した研究では、ボディビルダーの腸内には、短鎖脂肪酸の生成に関わる腸内細菌が著しく少ないことが明らかになりました。
この背景には、ボディビルダーにありがちな「超高タンパク質・低脂肪・低食物繊維」という食事が関係していると考えられています。
特に減量期には炭水化物摂取量を減らすため、食物繊維の摂取量も連動して減りがちです。

アンモニアが腸内環境を乱すメカニズム

摂取したタンパク質は体内でアミノ酸に分解されますが、この過程でアンモニアという副産物が生成されます。
アンモニアは身体にとって有害な物質であり、過剰に生成されると腸の内壁にダメージを与え、悪玉菌が作り出す有害な物質が腸管から漏れ出す「リーキーガット」と呼ばれる状態を引き起こす可能性があります。

漏れ出した有害物質が血液中に溶け込むと、身体のあちこちで炎症が起き始め、様々な病気の原因となることもあります。
では、アスリート、特に高タンパク質食を続けるボディビルダーの身体に、このような事態が起こっているのでしょうか?

研究によると、このような最悪の事態になるのは、「常識を超えて大量のタンパク質を摂取した場合」に限られるようです。
健康な人が常識の範囲内でタンパク質を摂る分には問題ないとされていますが、長期にわたる過剰摂取はリスクがないわけではないので、注意が必要です。

タンパク質摂取量の「適量」とは?

「摂れば摂るほど筋肉がつく」わけではありません。
実際、必要量を超えて摂取しても、体内でのタンパク質合成率は頭打ちになることが研究で示されています。

一般的に筋肉を大きくしたい場合、体重1kgあたり2gまでがタンパク質摂取量の目安とされています。
これ以上の量を摂取しても、効率的な筋肉合成には繋がりにくいと考えられます。
個人差はありますが、この数値を上限の目安とすると良いかとは思います。

2. プロテインが腸内環境に与える影響と対策

プロテイン

手軽にタンパク質を摂取できるプロテインは、アスリートにとって非常に便利なアイテムです。
しかし、プロテインが腸内細菌叢にどう影響するのか、その実態を見ていきましょう。

ある実験では、クロスカントリーアスリートを対象に、プロテイン(ホエイアイソレートとビーフプロテイン混合)と炭水化物(マルトデキストリン)を10週間にわたって摂取させ、腸内細菌叢の変化を調査しました。
その結果、プロテインを摂取したグループでは、8種類の腸内細菌の数が減少したことが分かりました。

一方で、短鎖脂肪酸の生成に関わる「バクテロイデーテス」の数が増加しているという興味深い結果も出ています。
バクテロイデーテスは、過去の研究で減少すると太りやすくなることや、炭水化物の消化を助け、脂肪への変換を抑制する作用があることが示されています。
この増加は、プロテイン摂取のメリットと捉えることもできるかもしれません。

しかし、腸内細菌の多様性が低下したという点は見過ごせません。
腸内細菌の多様性は、腸内環境の健康状態を示す重要な指標の一つです。

プロテイン摂取時の腸内環境改善策:食物繊維がカギ

プロテインを継続的に摂取するのであれば、この腸内細菌の多様性低下に対処する必要があります。
その解決策として最も効果的なのが、食物繊維をしっかりと摂ることです。

食物繊維は、腸内の善玉菌のエサとなり、腸内環境のバランスを整える働きがあります。
プロテインを積極的に活用するアスリートこそ、普段の食事で食物繊維を意識的に補給することが重要です。

3. 腸内細菌がアミノ酸の吸収と筋肉発達を促す!

筋肉を発達させるには、摂取したタンパク質が効率よく吸収されることが不可欠です。
実は、腸内細菌がタンパク質の吸収に深く関わっていることを示す研究結果がいくつか報告されています。

腸内細菌とタンパク同化作用

腸内細菌叢は、筋肉へのタンパク同化(筋肉の合成)を促す働きを持っていると考えられています。
ある実験では、「ラクトバチルス・パラカゼイ」という乳酸菌を摂取することで、植物性タンパク質に含まれる必須アミノ酸やBCAA(分岐鎖アミノ酸)の体内での利用効率が、動物性タンパク質と同レベルまで高まるという結果が得られています。
これは、ベジタリアンやビーガンのアスリートにとって、腸内細菌の重要性がさらに高まることを示唆しています。

プロバイオティクスとアミノ酸吸収

別の研究では、タンパク質とプロバイオティクスの一つである「バチルス・コアギュランス」を一緒に摂取すると、腸の上皮細胞の炎症が抑制され、栄養吸収の働きが改善されることが分かりました。

さらに、ヒトを対象にしたバチルス・コアギュランスの実験では、タンパク質の消化酵素であるプロテアーゼが増加し、アミノ酸の吸収が高まるという結果も出ています。
トレーニング後にプロテインとバチルス・コアギュランスを組み合わせて摂取することで、アミノ酸の吸収力が高まり、筋肉のダメージ修復が促進されると考えられます。

これらの研究から、腸内環境を整えることがアスリートの筋発達と回復にとって極めて重要であると言えそうです。

4. 高脂肪食が腸内環境に与える悪影響

揚げ物を食べている女性

食事の脂肪分、特に飽和脂肪酸の割合が多い欧米型の食事が、腸内環境に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

研究によると、高脂肪食は腸内細菌叢のバランスを崩し、「ファーミキューテス」と「バクテロイデーテス」の比率を変えてしまうリスクが高まるそうです。
この悪影響の主な原因は、高脂肪食に食物繊維が十分に多く含まれていないことにあります。
腸内環境や健康を考えるなら、質の良い脂質を選ぶとともに、食物繊維を十分に加えることが重要です。

健康的な油として知られるエキストラバージンオイルでさえ、摂りすぎると腸内環境を変化させ、全身性の炎症を引き起こす可能性のある物質のレベルを高めることが研究で示されています。

魚油のオメガ3脂肪酸が腸内環境にプラス

では、魚油などに含まれる「多価不飽和脂肪酸(特にオメガ3脂肪酸)」はどうでしょうか?

研究によると、オメガ3脂肪酸は腸内環境を大きく変えることはなく、健康に有用とされる腸内細菌が減少することもありません。
むしろ、短鎖脂肪酸を増やす腸内細菌を活性化し、血中に有毒な物質が流れ込むのを抑制する働きがあることが分かっています。
魚油(オメガ3脂肪酸)は、全身性の炎症を予防し、「腸と脳の連動性」を高めることにも役立つとされています。

5. ボディビルダーに食物繊維が必須な理由

理想的な腸内環境を作り維持するには、やはり食物繊維が最も重要です。
食物繊維を摂取することで、腸内の善玉菌の代表格であるビフィズス菌の数を増やすことができます。

前述したように、ボディビルダーは一般的な運動をしない人と同レベル、あるいはそれ以上に腸内細菌叢の多様性が低いという研究結果が出ています。
典型的なボディビルダーの食事(高タンパク質・低食物繊維)が腸内環境にマイナスの影響を与えている可能性が高いです。

たとえハードなトレーニングで身体を鍛えていても、食物繊維が不足している状態では、そのマイナスを補うことが難しいかもしれません。
腸内環境が乱れると、短鎖脂肪酸の生成が抑えられ、それが筋繊維の低下やグリコーゲン合成の低下を招く可能性も示唆されています。

【具体的な食物繊維摂取の目安】

ボディビルダーであれば、1000kcalごとに14g程度の食物繊維を目安に摂るように心がけてみましょう。
これにより、健全な腸内細菌叢(マイクロバイオーム)を育み、腸の健康を大きく改善できるはずです。
日々の食事で、意識的に食物繊維を摂取することが、アスリートとしてのパフォーマンス向上と長期的な健康維持に直結します。

まとめ:アスリートの腸活は「強い身体」への近道

アスリート、特に高タンパク質食を摂る方にとって、腸内環境のケアはトレーニングと同じくらい重要です。
この記事で解説したポイントをまとめると、以下のようになります。

  • 過剰なタンパク質摂取は腸内環境を悪化させる可能性があり、適切な摂取量(体重1kgあたり2gまで)が重要。
  • プロテイン摂取時は、腸内細菌の多様性低下を防ぐために食物繊維を意識的に補給することが必須。
  • 腸内細菌はアミノ酸の吸収を促進し、筋肉の合成や回復に深く関わっている。
    プロバイオティクス(バチルス・コアギュランスなど)の活用も有効。
  • 高脂肪食は腸内環境を乱す原因となるが、オメガ3脂肪酸(魚油など)は腸の健康に良い影響を与える。
  • 食物繊維は腸内環境を整え、筋発達やグリコーゲン合成に寄与するアスリートにとって必要不可欠な栄養素。ボディビルダーは特に意識して摂取すべき。

腸内環境を整えることは、単に消化吸収を助けるだけでなく、全身の炎症を抑え、免疫機能を高め、トレーニングの成果を最大化し、アスリートとしての寿命を延ばすことに繋がります。