トレーニング・フィットネス

筋力向上は高強度一択、筋力は筋肉量だけでなく神経活動も関係、イメージトレーニングでも筋力は向上する

筋肉量と筋力はイコールではない

筋力は筋肉の断面積に比例しますので筋肉量が多いと筋力も一般的には高くなります。
体格ががっちりした人を見るときっと力も強いだろうと感じるのもその為です。

しかし、現代のスポーツ科学では筋肉の大きさだけでは筋力について完全に説明しきれないのです。
これは私たちの身近なところでも確認することができると思います。
一般的に日本人は、海外の人と比べて身体は小さく筋肉量も少ないです。
ところがスポーツ競技においては素晴らしい成績を収める人も多くいます。

筋肉量と筋力は関係がありますが、筋力の強さに必ずしも直結しません。
筋肉の大きさと筋力の関係を調べた研究報告では、筋肥大による筋力増強への寄与は50~60%にとどまると示唆されています。

また、筋肉の総量を示す筋体積と筋力にはある程度の関係性が認められたものの完全な関係性までは認められませんでした。

つまり、筋肉の大きさだけでは筋力を説明することができないと言うことです。

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

そこには筋力に深く関わるもう一つの重要な要素である神経活動があるからです。
神経活動によって筋力は、大きく変わるのです。

筋力は神経活動が関係、右手を鍛えると左手も教育される

ニューロン

筋肉の収縮は、脳の神経から伝わる指令によって起こります。
現代の脳科学では神経活動を高めて運動に適応させていくことが筋力向上に繋がるとされています。

例えば、神経活動にアプローチすることで筋肥大に関係なく簡単に筋力を強くする方法があります。
右手に重めのダンベルを持ち、アームカールを疲労困憊になるまで行います。
実は、これだけでも左手の筋力が10%増強するのです。
これは何とも不思議なことですが、ここにも科学的なエビデンスがあります。

1894年イエール大学の心理学者スクリプチャーらは、運動の学習についてある実験を行っています。
被験者は板に開いた穴にそれよりもやや細い直径の棒を通す課題を繰り返して行いました。
穴の縁にはセンサーがあり棒がぶつかるとエラーが表示されその回数を計測したのです。
被験者は右手で棒を持ち注意しながら穴に棒を通しましたが、最初は多数のエラーが表示されました。

しかし、回数を重ねるごとにこの動作に慣れてエラーの数が減っていたのです。
この実験の目的は、繰り返しによる運動学習の効果を調べるものでしたが、その途中であることを発見します。

棒を上手に通せるようになった被験者が左手に棒を持ち替えて課題を行ったところ、驚くことに最初から右手よりも少ないエラー数で棒を通すことができたのです。
この結果から片方の手で運動を学習すると反対側の手まで教育されることを明らかにしました。

これをクロスエデュケーションと名付けました。

そして今度は、水銀計に繋がるゴムボールを被験者に握らせて左右の握力を計測しました。
次に右手でゴムボールを何度も握るトレーニングを行わせました。
するとトレーニングしていない左手の握力も増加していたのです。
この結果から、それが運動の学習だけでなく筋力にも生じることを明らかにしました。

その後もクロスエデュケーションによる筋力の増強効果は様々な研究で追認されて2018年にはイタリア・サッサリ大学のマンカらが31の研究結果をもとに解析したメタアナリシスによって「片側のトレーニングは、反対側の筋力を11.9%(腕9.4%、脚16.4%)増強させると報告しています。

イメージトレーニングだけでも筋力が増加、神経活動の適応

脳伝達イメージ

神経活動にアプローチをすることで簡単に筋力を強くする方法は、もう一つあります。
それがイメージトレーニングです。

自分がトレーニングをしている姿をイメージする、実はこれだけでも筋力は10%ほど増強させることができます。
これは最新の脳科学において筋肉と神経活動の関係を検証したエビデンスがあります。

2017年フランス・ブルゴーニュ大学で同様のイメージトレーニングを7日連続で行った結果、被験者のふくらはぎの下腿三頭筋の筋力が9.46%増強したと報告しています。

また、終了後被験者の脊髄の神経活動が増加することを神経生理学的評価によって明らかにしています。

2017年、同大学のルフィーノらは、イメージトレーニングによる筋力増強のメカニズムを検証した過去の研究報告をレビューし脊髄と共に大脳皮質の運動野の神経活動が増加することを示唆しています。

筋力は筋肉を大きくさせなくても神経活動を変化させることによって筋力を増加させることができると言うことです。

しかしこれらの方法による筋力増加は、一時的な神経活動の変化がもたらすもので、翌日には元に戻ってしまいます。
これでは真の筋力増加には繋がりません。
そこで重要になるのが神経活動の適応です。

脳は160億以上の神経細胞(ニューロン)が複雑に繋がり合っている巨大なネットワークからなります。
ニューロンは先端にある樹状突起で他のニューロンとシナプスを形成して繋がり合って情報を伝達しています。
新しい運動を取り組むと最初は上手くできなかったものが、繰り返し練習するうちに次第に上達していきます。
つまり身体が覚えると言うことです。
これは、新たに得た情報を伝達するうちにシナプスが組み替わり神経ネットワークが変化することに起因しています。

このようなネットワークの再構築を神経活動の適応と言います。

脳科学では、運動が上達するメカニズムとして活用されています。

そして、筋力増強の効果を長期的に得る為には、筋肥大とともに筋力を強く発揮できるように神経活動を変化させて適応させることがポイントになります。

では、神経活動の適応を起こすには一体どうすれば良いのでしょうか。

高強度トレーニングで神経活動の適応が高まる

スナッチ男性

筋力を向上させるトレーニング強度についてアメリカスポーツ医学会では「高強度トレーニングが推奨される」としています。
具体的には1RMの80%以上の高強度トレーニングを推奨しています。
これは現代のスポーツ科学も支持をしています。

では、なぜ筋力向上のトレーニングは、中強度や低強度ではなく高強度トレーニング一択なのでしょうか。

強い力を発揮するには、大きな運動単位を動員して収縮させることが絶対条件となります。

一つの筋肉には大きな運動単位が複数ありますが、強い力を発揮するにはそれぞれの大きな運動単位がバラバラではなく、同じタイミングで収縮することが重要となります。
これを運動単位の同期と言います。

そして、強い力を発揮するので重要なのが神経活動の発火頻度です。
神経活動の発火頻度を高めれば、多くの運動単位が同じタイミングで動員されてより高い筋力を発揮することができます。
ほぼ未経験の高強度トレーニンを繰り返していると脳の中では神経活動の発火頻度が高まります。

これによって複数の運動単位を動員し同期して強い力を発揮できるようなネットワークが再構築されていきます。

このネットワークが完成すれば、より高強度の重量にも対応できる神経と筋肉へと増強されて必要な力を発揮できるようになります。

これが、神経活動の対応による筋力増強のメカニズムになります。

筋力増強は特異性の原則に基づく

背中のトレーニングをする男性

トレーニングの原則には、特異性の原則と言うものがあります。
これは、トレーニングの効果はトレーニングをした内容に依存すると言うものです。

筋力を高めたい場合も特異性の原則に基づいているので、高強度トレーニングが効果的なのです。

近年では、神経生理学の最新の知見から人体の学習機能が明らかになり、そこから筋力増強には高強度トレーニングが効果的であることを裏付けるエビデンスも登場しています。

2017年ニューヨーク市立大学のシェーンフェルドらは、トレーニング強度と筋力増強の効果を調べた21件の研究報告をもとにメタアナリシスを行いました。
解析のもととなったデータを1RMの80%以上の高強度、80%未満の中~低強度のグループに分類して6週間のトレーニングによる筋力増強の効果について分析した結果、高強度トレーニングの方がより有意に筋力増強効果があることが示されました。

この結果を受けて「筋力を高めるには、高強度の重量を使ったトレーニングが有効であり、これは神経活動の適応メカニズムに一致する」と述べています。

現代のスポーツ科学でもこのメタアナリシスをエビデンスとして、高強度トレーニングが最も筋力増強の効果が高いとしています。

筋力を高めたいなら高強度トレーニング一択と言えるでしょう。