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筋力トレーニングに良いサプリメントとは?HMBは初心者のみ有効、グルタミンやアルギニンはエビデンスレベルが低い

今注目のエルゴジェニックエイドとは?

近年、筋力トレーニングの効果を高めるとして注目をされているものがあります。
それがエルゴジェニックエイドと呼ばれるサプリメントです。
運動能力に影響する可能性のある栄養素や成分を含んでいるとされています。

マリオはキノコを食べると大きくなりパワーアップします。
これと同じように何らかの栄養素や成分を摂取することで普段以上にパフォーマンスが向上させることができれば、筋力トレーニングの効果も一層高めることができるようになるでしょう。

一般的にサプリメントと言えば、不足する栄養素を補うことが目的です。
一方でエルゴジェニックエイドは、100を110に上げると言ったような普段以上のパフォーマンスを発揮させる為に使われるサプリメントになるようです。

現在では、様々なサプリメントが紹介されていますが、その中には科学的なエビデンスがないものがほとんどです。

サプリメントは、医薬品ではないので効果効能を謳うこと自体できませんが、選ぶ時は何を基準に選んだらいいのでしょうか。

参考となるスポーツサプリメントを選ぶ基準

参考となるのが、2018年に国際スポーツ栄養学会が報告した筋力トレーニングとサプリメントの効果に関するレビューです。

国際スポーツ栄養学会はこの中で筋肥大、トレーニングパフォーマンスと言う2つの視点から様々な研究報告を分析し効果を示すエビデンスレベルを3つに分類しています。

エビデンスA
明らかに安全で効果のある強力なエビデンスを示すもの

エビデンスB
限定された効果のあるエビデンスを示すもの

エビデンスC
効果や安全性を裏付けるエビデンスがほとんどないもの

筋肥大の効果を高めるサプリメント

筋肉を鍛える男性

エビデンスレベルA
・HMB(トレーニング初心者)
・クレアチン
・必須アミノ酸
・プロテイン

エビデンスレベルB
・ATP
・BCAA(分岐鎖アミノ酸)
・ホスファチジン酸

エビデンスレベルC
・硫酸アグマチン
・αケトグルタレート
・アルギニン
・ボロン
・クロム
・CLA(共役リノール酸)
・Dアスパラギン酸
・エクジステロン
・フェヌグリーク抽出物
・ガンマオリザノール
・グルタミン
・成長ホルモン放出ペプチド
・イソフラボン
・オルニチンαケトグルタレート
・プロホルモン
・スルホ多糖類
・トリビュラステレストリス
・硫酸バナジル
・亜鉛アスパラギン酸マグネシウム

パフォーマンスを高めるサプリメント

ダッシュ

エビデンスレベルA
・ベータアラニン
・カフェイン
・炭水化物
・重炭酸ナトリウム
・リン酸ナトリウム
・水とスポーツドリンク

エビデンスレベルB
・Lアラニル-Lグルタミン
・アラキドン酸
・BCAA(分岐鎖アミノ酸)
・シトルリン
・必須アミノ酸
・グリセロール
・HMB
・硝酸塩
・運動後の炭水化物とタンパク質
・ケルセチン
・タウリン

エビデンスレベルC
・アレニン
・カルニチン
・グルタミン
・インシン
・MCT(中鎖トリグリセリド)
・リボース

クレアチンは筋力トレーニングのパフォーマンスを高める

ウエィトリフティングをする男性

筋肉を収縮させるにはATPが必要です。
しかし、筋繊維はATPを少量しか蓄えることができず1秒ほど筋肉を収縮させただけでなくなってしまいます。

筋繊維がATPを作る仕組みはクレアチンリン酸系、解糖系、有酸素系と言う3つあります。
これらは運動強度やエネルギーが必要な時間量によって使い分けられています。

筋力トレーニングで使われるのは、主にクレアチンリン酸系と解糖系です。
クレアチンリン酸系は、筋繊維に含まれているクレアチンリン酸を分解することでATPを作り出しますが、実は筋繊維に含まれているクレアチンリン酸も蓄積量が少なく7~8秒程度の筋収縮でなくなってしまいます。
そこでクレアチンのサプリメントです。

クレアチンは3つのアミノ酸(アルギニン、グリシン、メチオニン)から作られ、普段はクレアチンリン酸として筋繊維に存在しています。
クレアチンをサプリメントで補えば、体内のクレアチンリン酸の量が増えてATPを作り出す能力が高まってパフォーマンスを高めることができるようになります。

2015年フランスのクレルモンフェラン大学のランチャーらは、筋力トレーニングとクレアチン摂取に関する複数の研究報告をまとめたメタアナリシスを報告しています。
この中でランチャーらは、クレアチンが筋力トレーニングの効果やパフォーマンスアップに影響を与えることを示し「クレアチンはトレーニング効果、パフォーマンスを向上させる」と結論づけています。

アメリカテキサスA&M大学のクライダーらのレビューでは、クレアチン摂取に関する1000件もの研究結果を分析した結果、副作用に関する報告はなく安全性は問題ないと結論付けています。

クレアチンの効果を高める摂取方法としては、最初の5~7日間は1日に体重1kgあたり0.3gを摂取して筋繊維の総クレアチン量を増やし、その後は総クレアチン量を維持する為に1日3~5gを摂取することが推奨されています。

これらの報告に対して国際スポーツ栄養学会は明らかに安全で効果のある強力なエビデンスを示すものとして、クレアチンをエビデンスレベルAに分類しています。

カフェインは筋持久力と最大筋力を増強

脳伝達イメージ

カフェインについては1907年にロンドン大学のリバースらが行った研究をはじめとして筋疲労を軽減して筋持久力を高め運動のパフォーマンスを向上させると言う研究結果が世界中で報告されています。

カフェインが筋持久力を高めるのは、今までは筋肉内のグリコーゲンの分解が促進されるからと考えられていました。
しかし、その後カフェインが作用するのは筋肉ではなく脳であることが明らかになりました。

筋力トレーニングにおいて疲労困憊まで回数を行っていくと脳にある痛みや疲労などの信号を受け取るアデノシン受容体が神経細胞に働きかけ細胞の活動を抑制します。

通常はこの働きによってパフォーマンスが低下していきますが、カフェインはアデノシン受容体に作用してその感受性を低下させます。
その結果、疲労を感じるまでの時間が遅くなりパフォーマンスを維持・向上させることができるようになります。

また、カフェインは脳の神経活動を高めるドーパミンなどの神経伝達物質の放出を促進させることで筋力増強を促す可能性があることも示唆されています。

ヴィクトリア大学のGrgicらは、カフェインの筋力増強効果に関する10の研究報告を分析したメタアナリシスの中でカフェインは最大筋力を増強させると結論付けています。

カフェインの筋力増強効果には下記の3つの傾向があるようです。

・脚、腕ともに効果的だが腕への効果が高い
・男女ともに効果的だが男性のほうが効果は高い
・トレーニング経験に関わらず効果的だが、トレーニング未経験者のほうが効果は高い

カフェインの効果的な摂取量は1日で体重1kgあたり3mg以上が推奨されています。
注意点としては、血圧の上昇と不眠があります。

カフェインを体重1kgあたり9mg以上の高用量で摂取すると不眠の副作用が顕著になることが報告されています。

カフェインは、過度な量を摂取しなければ安全性に問題ないとされています。

これらの研究報告に対して国際スポーツ栄養学会は明らかに安全で効果のある強力なエビデンスを示すものとしてエビデンスレベルAに分類をしています。

HMBはトレーニング初心者に効果的

腹筋トレーニング

筋力トレーニングの効果は良質なタンパク質を摂取することで高くすることができますが、特に重視されているのがロイシンの量です。

ロイシンは必須アミノ酸でBCAA(分岐鎖アミノ酸)の一つです。
ロイシンは筋肉で代謝されるとHMBに変化します。
HMBは筋タンパク質の合成を促すmTORを活性化し同時に筋タンパク質の分解も抑制をします。

近年ではHMBのサプリメントが人気を集めているようです。

HMBが認知されるようになったきっかけが2003年アイオワ州立大学のニッセンらが行ったメタアナリシスです。
ニッセンらは、2001年までに報告されたサプリメントとトレーニング効果に関する複数の研究を解析し、最も筋肥大と筋力増強の効果を高めるサプリメントはクレアチンとHMBであると結論付けました。

ですが、2009年になってHMBはトレーニング未経験者には効果的だが、経験者に対してはわずかな効果しか期待できないとするメタアナリシスが報告されました。

ニュージーランドマッセー大学のローランズらは、2007年までに報告されたトレーニング効果とHMBに関する9つの研究をもとにそれらの対象となったトレーニング未経験者135名、経験者259名の計394名に対するHMBの効果を分析しました。

その結果、トレーニング経験の有無に関係なく、HMB摂取による筋肥大効果はわずかな増加にとどまり、筋力増強効果は未経験者のみに認められ経験者では認められませんでした。

HMBはトレーニング経験者には効果がないとする結論に対して否定する識者も多くいます。
この論争に終止符を打ったのがカトリック大学のサンチェスマルティネスらのメタアナリシスで2018年に報告されました。

2017年までに報告されたトレーニング効果とHMBに関する研究を分析したものでトレーニング経験者193名の検証結果を6つのランダム化比較試験で解析をしています。
その結果、HMBを摂取してもベンチプレスやレッグプレスの1RM筋肉量の増加には有意な効果は認められなかったのです。

これを受けて現在では「HMBはトレーニング未経験者や初心者のトレーニング効果を高める一方でトレーニング経験者やスポーツ選手への効果は期待できない」と言う認識が世界的に定着をしています。

国際スポーツ栄養学会はトレーニング初心者に限り、明らかに安全で効果のある強力なエビデンスを示すものとしてHMBをエビデンスレベルAに分類をしています。

ベータアラニンは筋疲労を軽減

女性ストレッチ

筋力トレーニングを行うと解糖系によってATPが作られるのと同時に水素も発生します。
疲労困憊まで行うと水素が溜まり筋肉が酸性になります。
この酸性化によって筋疲労を感じるとカルシウムイオンの放出が抑制され、筋収縮も抑えられてしまいます。

カルノシンと呼ばれるペプチドは、これに対して筋収縮時のカルシウムイオンを放出を促して水素の発生を抑制する作用があります。

アミノ酸の一種であるベータアラニンを摂取するとカルノシンの濃度が高くなり、筋小胞体からカルシウムイオン放出が促されて、水素の発生が抑えられます。
その結果、筋疲労が軽減してパフォーマンスを維持することができます。

2009年オクラホマ大学のスミスらは被験者に6週間の継続的なトレーニングを行わせて、その間にベータアラニンを摂取させた結果、プラセボの摂取に比べて有意な筋肉量の増加を認めたと報告しています。

また、アダムス州立大学のカーンらも同様の報告をしています。
国際スポーツ栄養学会によるレビューでは、これらの研究報告は長期的な検証が欠けていると指摘しつつもベータアラニンの摂取はトレーニングの疲労を軽減し回数を増加させることによって総負荷量を高めて筋肥大を効果的に生じさせる可能性があるとしています。

ベータアラニンの効果的な摂取量は、1日あたり4~6gとされています。
1回あたり2g以下を目安に2~3回に分けて摂取し2週間以上の継続的な摂取が推奨されています。
注意点として、摂取した当初は顔や首、手などが一時的にピリピリ、チクチクした感じになることがあります。
ですが、これは継続的な摂取でなくなっていきます。

ベータアラニンは、体内で生成されているアミノ酸であるので、国際スポーツ栄養学会では外部から摂取しても有害性はないとしています。
これらの報告を受けて国際スポーツ栄養学会はエビデンスレベルAに分類しています。

グルタミンとアルギニンはエビデンスレベルが低い

統計データイメージ

世間一般的に効果があるとされていてもエビデンスレベルが低いものもあります。
それがグルタミンとアルギニンです。

グルタミンはタンパク質の分解を抑えグリコーゲンの蓄積を促進するとされています。
しかし、2000年以降に報告されたトレーニング効果とグルタミン摂取に関する研究では、プラセボと比較しても明らかな効果は認められませんでした。

また、グルタミンは免疫機能を高める効果があると言われています。
強度の高いトレーニングをした後は、一時的な免疫機能が低下し病気になりやすい状態になっています。
これにグルタミンの摂取が効果的であるとする研究結果が多数報告されていました。

しかし、2018年イランアドヴァーズ大学のラメザニアフマディらが報告したメタアナリシスでは、グルタミンの摂取はトレーニング後の免疫機能に影響を与えないことが示唆されました。

このメタアナリシスでは免疫機能の指標として、白血球、リンパ球、好中球について解析をしていますが、その全てでグルタミン摂取が免疫機能を高めたとする結果は示されなかったのです。

ですが、好中球についてはグルタミンを1日体重1kgあたり0.2g以上の高用量で摂取すると免疫機能が高められる可能性が示唆されていて、トレーニング後の免疫機能低下を予防する場合、この量を摂取することが推奨されているようです。

国際スポーツ栄養学会はグルタミンをエビデンスレベルCに分類しています。

アルギニンは非必須アミノ酸ですが、間接的に筋タンパク質の合成を促進させると考えられています。
その効果が血管の拡張による血流量の増加です。

アルギニンは一酸化窒素(NO)を生成して血管を拡張させます。
血管が拡張されれば、血液量も増加するのでトレーニング後にタンパク質とアルギニンを摂取すると血流にのって多くのアミノ酸を素早く筋肉に行き届くので筋タンパク質の合成を高めるとされていました。

また、アルギニンは成長ホルモンの分泌を促す作用もあり、筋肥大の効果を高めると考えられていました。
しかし、現時点ではアルギニン摂取によって筋タンパク質の合成が高まったとする信頼できるエビデンスは示されていません。

国際スポーツ栄養学会はアルギニンをエビデンスレベルCに分類しています。

サプリメントを選ぶ際には、世間の評価を鵜吞みにせずに信頼のおける科学的根拠があるのかどうかをまずは調べるようにするといいでしょう。
もちろんエビデンスが全てと言うわけではありません。

プラセボ効果かもしれませんが、実際に使ってみてどうだったか自分の身体で検証をして良かったと感じられる物を使うのも良いかと思います。

基本的にサプリメントは効果があるわけではないと言うことも念頭に置いておいておきましょう。
医薬品ではなくて、あくまで食品になるからです。
サプリメントは見極めて使うようにしましょう。