筋力トレーニングのセット間の休憩は短ければ良いわけでもない!フルレンジが筋肥大に効果的
セット間の休憩時間は短時間?長時間?
筋力トレーニングをする人の多くは、どのくらいの重さでどんな器具を使って何セット行うのかなどトレーニングメニューを緻密に考えるのではないでしょうか。
ここで見落としがちなのが、セット間の休憩時間、つまりインターバルの取り方です。
実は筋肥大を効果的にするには、セット間の休憩時間はとても大切な要素になります。
ですが、最適な休憩時間はトレーニング経験の有無、性別などにも左右されるので最適な時間を知るのはなかなか難しいと言えます。
インターバルの時間については、スポーツ科学の分野では短時間派と長時間派に分かれ長い間、議論されていました。
1分程度の短時間派は、筋肥大を高めるとされていた成長ホルモンの分泌を根拠にしています。
ある研究では、ベンチプレスやスクワットを4セット行わせ、セット間の休憩時間を1分、1分半、2分に設定をして運動後の成長ホルモンやテストステロンの濃度を計測しました。
その結果、2分の休憩時間に比べて1分と1分半では成長ホルモンの増加が認められました。
セット間の休憩時間が短い方が、成長ホルモンの分泌が促されて筋肉が肥大しやすいと言うのが常識として定着をしていきました。
ですがその後、成長ホルモンの増加は筋タンパク質の合成作用や筋肥大にあまり関与しないと言うことが分かってきたのです。
2012年マクマスター大学のウェストらは、筋肥大に関与するとされる因子について検証をしました。
被験者が12週間のトレーニングを行った結果、約20%の筋肉量の増加を認めました。
この筋肉量の増加に対する成長ホルモン、テストステロン、インスリン様成長因子などの影響を調べたところ、これらと筋肥大には有意な関連が見られなかったとのことです。
2013年同大学のミッチェルらはウェストらの報告を改めて検証し、同様の結果を報告しました。
これらの結果からトレーニングによる一時的な成長ホルモンなどの増加は筋タンパク質の合成や筋肥大に関与しないと結論づけられました。
「筋肥大は運動単位の十分な動員によって活性化された細胞内機構が筋タンパク質の合成作用を促進させることによって生じる」と述べています。
よってインターバルが短い方が良いと言うわけではないと言うことになります。
では、長い方が良いのかと言うと決してそうとも言えません。
インターバルの長さは、個人差を考慮した方が良いかと思います。
強度によって休憩時間を変えると良いかも、個人差を考慮
人間は、年齢や性別、体格、運動機能、トレーニング経験の有無などにおいて個人差があります。
例えば、男女差であれば筋肉量や菌代謝、血液などの回復機構が異なるのですが、セット間の休憩時間に影響を与えることは一切考慮されていませんでした。
2017年にオーストラリア・メルボルン大学が報告したシステマティックレビューがあります。
セット間の休憩時間に関する23の研究報告を分析して、性別やトレーニング経験、運動強度によって最適な休憩時間が異なることを明らかにしています。
この中では、性差による休憩時間の影響を分析し、女性は男性よりも菌代謝の回復が早いことが示唆されています。
さらにトレーニング経験の有無による最適な休憩時間も分析しています。
トレーニング経験者は高強度トレーニングを行うことが多いものですが、その場合、休憩時間が2分と長い方が総負荷量の増大に繋がり、トレーニング効果が高まるとしています。
一方でトレーニング初心者は中・低強度トレーニングをすることが多いですが、その場合、1~2分と短時間の休憩でも十分に高いトレーニング効果を得ることができると分かりました。
これらにより最適な休憩時間には個別性があると言うことが明らかになったことになります。
トレーニング経験者が行うような高強度トレーニングでは、セット間の休憩時間を長くすることで総負荷量を高める可能性があります。
トレーニング初心者が行う中・低強度トレーニングであれば1~2分間程度の休憩時間で問題はないと思われます。
トレーニングによる筋肥大は、総負荷量が重要であるので休憩時間を長くすることで総負荷量を高められるならその方が効果は高いと言えるでしょう。
セット間の休憩時間よりも、休憩時間によってトレーニングの総負荷量がどうなるのかを考えるのが重要と言えそうです。
フルレンジが筋肥大に効果的
筋力トレーニングは、器具やマシンを使って行う屈伸運動が基本となります。
なので関節をどのくらいまで動かすかによって筋肥大の効果が大きく変わります。
関節を動かす範囲は、可動域いっぱいに曲げ伸ばしするフルレンジと中間の角度で動かすパーシャルレンジがあります。
トレーニングによる筋肥大は、総負荷量によって決まりますが、近年の研究では関節を動かす範囲も影響することが分かってきました。
2012年ブラジルのフェデラル大学のピントらは、関節を動かす範囲の異なりによるトレーニング効果について報告をしています。
ピントらは40名の被験者をアームカールフルレンジ0~130度で行うグループとパーシャルレンジ50~100度で行うグループに分けて共に週2回のトレーニングを10週間行いました。
トレーニングの強度は最初の1、2週は20RMの低強度トレーニングで、その後、9,10週では8RMで行っています。
その結果、パーシャルレンジに比べてフルレンジのグループで明らかな筋肥大の増大が示されました。
効果はフルレンジがパーシャルレンジの約2倍の値になりました。
この結果からピントらは筋肥大を目的とした場合、フルレンジのトレーニングが有効であると述べています。
2013年デンマーク・コペンハーゲン大学のブルームクイストらは、スクワットにおける膝の角度の違いによるトレーニング効果を検証しています。
フルレンジのスクワット0~130度のグループとパーシャルレンジのスクワット0~60度のグループに分け週3回のトレーニングを12週間継続した結果、パーシャルレンジのスクワットに比べフルレンジのスクワットグループでは、脚の筋肉量は優位に増加しました。
この結果は、パーシャルレンジのスクワットよりもフルレンジのスクワットの方が筋肥大の効果が高いと言うことを示唆しています。
これらの報告によって筋肉を大きくしたい場合は、関節可動域をフルに使うフルレンジが効果的であると推奨されています。
フルレンジは筋肉へのダメージが大きく回復に時間がかかる
一般的にパーシャルレンジは高強度トレーニングが可能になる一方で関節への圧縮応力が高く、この部分に大きな負担がかかるので怪我をしやすくなるとされています。
では、フルレンジの方が安全なのかと言うと実はそうでもありません。
フルレンジは総負荷量を高めやすいですが、怪我のリスクを高めてしまうと言う報告もされています。
2017年8月フェデラル大学のバロー二らはアームカールでフルレンジとパーシャルレンジがもたらす筋肉へのダメージについて検証をしています。
この実験では、フルレンジで行うグループとパーシャルレンジで行うグループに分けて、最大筋力の80%で10回4セットを行わせました。
ダメージを見るポイントは、最大筋力、肘を伸ばした時の筋肉痛、触診による筋肉痛、肘の動きの結果としてトレーニング直後、24時間後、48時間後、72時間後に計測しています。
その結果、パーシャルレンジに比べてフルレンジの方が筋肉へのダメージが大きいことが分かりました。
フルレンジでは、トレーニング直後から最大筋力が低下し、肘を伸ばした時の筋肉痛や触診による筋肉痛が生じ72時間後まで継続することが示されました。
これに対して、パーシャルレンジは筋肉のダメージはありますが、72時間後にはもとのベースラインに戻ることが示されました。
筋肉は、筋肉の長さが生体長の範囲から離れるほど、負荷によるダメージが大きくなるとされています。
フルレンジはパーシャルレンジよりも筋肉を大きく伸ばしたり縮めたりするので筋肉へのダメージが大きくなりやすく、回復が遅くなるとしています。
筋肉が発揮する力は、筋肉の長さに影響を受けますが、筋肉のダメージも同じように筋肉の長さに影響を受けることが示されたと言うことです。
フルレンジでのトレーニングは、パーシャルレンジよりも筋損傷が大きく回復時間も長くなることを考慮した上でトレーニングプランを考える方が良いしょう。
筋肉を大きく肥大させるには、フルレンジでのトレーニングが推奨されますが、筋損傷を誘発して回復を遅らせる可能性が指摘されています。
高強度の負荷でのトレーニングをする場合、怪我のリスクを避けたいのであればパーシャルレンジで行うか、フルレンジの手前で運動を切り替えてみると良いかと思います。