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「乳酸=疲労物質」は誤り!乳酸は糖の仲間でありエネルギーになる、乳酸性作業閾値(LT)とは?

乳酸はグルコースを分解する過程で生成される糖の仲間

乳酸と言えば疲労物質というイメージを未だに多くの人が持っているのではないでしょうか。
ですが、「乳酸=疲労物質=悪者」と言われていたのも今では昔の話です。
現在では、乳酸は疲労の原因ではなくて、疲労をするような運動をした結果としてできるものとされています。
そして、乳酸は運動中のエネルギーを作り出す働きを持っていることも分かっています。

乳酸と聞くと名前に酸の文字が入っているので、アシッド(酸)のイメージが強いかもしれませんが、実は乳酸は糖です。
私たちは、筋肉を動かす為に糖や脂肪を分解してエネルギー源であるATPを合成します。
糖と脂肪では、糖のほうが素早く分解できるので運動時にはよく使われます。

糖は、血中にあれば血糖、筋肉にあればグリコーゲンと呼ばれています。
これらの糖を分解する時に、その過程で生産されるのが乳酸になります。

糖は最終的にピルビン酸にまで分解されますが、その過程で生成された乳酸は筋肉中でいっぱいになると血液中に染み出してきます。
通常、糖は細胞の中から外へは、ほぼ出ないのですが、乳酸は容易に出ることができてしまいます。
これによって運動時には、血中乳酸濃度が上昇してきます。
糖を分解してエネルギー源であるATPを作れば作るほどたくさんの乳酸が生成されるのです。

そして、その状態が長く続くと血液中の乳酸濃度が高くなる、ということになります。
運動後に血中乳酸濃度を測定することで、その運動でどのくらいエネルギーを使ったのか、どのくらいの負荷だったのかが分かります。

乳酸は、運動の強度と密接な関係があります。
運動強度を上げていくと乳酸値もそれに伴って上昇していきます。
ただし、乳酸は心拍数のように直線的に上昇するのではなく、ある一定の強度まではなだらかに上がっていきます。
運動強度が60~75%から一気に上昇していきます。

血中乳酸濃度が急激に上昇する運動強度を乳酸性作業閾値(LT)と言います。

乳酸性作業閾値(LT)が示すものとは?

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血液中の乳酸濃度が急激に上昇するポイントが乳酸性作業閾値です。

では、これは一体何を示しているのでしょうか。

例えば、トップアスリートと一般人が一緒に同じスピードでジョギングをするとトップアスリートにとっては、LTに達していない楽な走りでも一般の人にとってはLT以上のキツイ走りになります。

このLTの差は、日々のトレーニングによって生まれます。
つまりトレーニングを積み重ねることでLTを向上させることができるということです。
LTが向上すると強度が高い運動でも糖を分解しないで糖の分解を控えながら運動を行う能力が高まったことを意味し、有酸素運動の能力が向上したと説明することができます。

まず重要なのは、自分のLTを知ることです。
低強度の運動では、主に脂肪を分解して遅筋繊維で走っていますが、LTからは少しアクセルを踏むことになります。
LT強度以上では、主に糖を分解して速筋繊維で走るようになり、その結果乳酸がたくさん生成されます。
このポイントがどのあたりなのかを知っておいて、その強度でトレーニングをすると良いでしょう。
さらに運動強度が上がれば、糖分解が進み血中乳酸濃度が高くなってキツさは増大します。
そして、血中乳酸濃度が20mmolくらいになる時に身体は限界を迎えます。

乳酸はエネルギーになる

乳酸は糖であり、炭水化物やでんぷんの仲間になります。
血液を流れる糖の分子量は180ですが、乳酸も90の分子量がある糖で、まだまだ分解することができます。
乳酸がミトコンドリアで分解されると分子量が90から0になるまでの間にATPを作る材料になります。

この時に、乳酸はミトコンドリアで直接分解されるのか、それとも一度ピルビン酸に戻ってからミトコンドリアで分解されるのか、という議論が1990~2010年頃白熱していたようです。
運動によって生成された乳酸はその後、肝臓に運ばれて肝臓内でグリコーゲンに再合成されることで再びエネルギー源として保存されます。
この代謝循環をコリサイクル(コリ回路)と言います。

しかし、実際には運動後の乳酸は、ほとんどが筋肉内のミトコンドリアで分解されることが、90年頃には分かりつつありました。

乳酸は、必ずしも全てが血液中に流れ出るわけではありません。
多くの乳酸は筋肉中で待機をして順次、エネルギー源として分解されていきます。
ジョギングをすると血中乳酸は約2~4mmlですが、その際の筋中乳酸は10~20mml程度と言われています。
運動時に糖は分解されてピルビン酸になります。

ですが、ピルビン酸は不安定で、その状態ではいられないので、筋肉の中でいったん乳酸に変わります。
ピルビン酸や乳酸はまだまだATPを作る材料となる糖なのですが、以降の分解はミトコンドリアが担当をします。
ミトコンドリアは多くのATPを作り、細胞内にある別のエネルギー源の生産部署になります。

筋肉内に溜まった乳酸は適宜、再度ピルビン酸に変換されミトコンドリアの中へと移動します。
筋肉内の乳酸は、ミトコンドリアに入って分解されるのを待っている状態ですが、一部は血液中に移動をします。
血液中に出た乳酸は、他の筋肉や心臓に取り込まれて、そこのミトコンドリアで分解されたりもします。

なぜ乳酸は長年、疲労物質と言われ続けてきたのか

メディカル

1920年代頃の研究では、カエルの筋肉を摘出して電極を付けて強制的に収縮させ収縮しなくなった時に筋肉の中でどのようなことが起こっているのかが調べられました。

その結果、疲労困憊の筋肉内には乳酸がたくさん蓄積してpHが下がっている、つまり酸性になっていることが分かりました。
実際に糖を分解して乳酸ができる際に水素イオンも一緒に作られます。
化学では、H⁺が増加するpHが下がるとされているので、このことから乳酸は酸だからpHを下げてしまい、そのせいで筋肉の収縮ができなくなる、なので乳酸は筋肉を疲労させるものだ、と考えるようになったのです。

高強度の運動を行えば、血中の乳酸濃度は上昇しますので、疲労した状態で乳酸が出るのは間違いありません。
しかし、実際では乳酸ができたから疲労したのではなく「疲労するような運動をしたから乳酸ができた」のです。

乳酸は、原因ではなくて結果の一つに過ぎないわけです。
昔の研究方法では、何が原因で何が結果なのが分からなかったので乳酸が悪者扱いをされてしまったと言えます。
現在の研究では、ヒトの筋肉中のpHは筋収縮を阻害するほど大きく下がらないことが分かっています。

また、pHが下がったとしても乳酸だけが原因ではありません。
80年代には、既に乳酸に対する誤解が世界的に理解され始めていました。
日本では90年頃から、乳酸研究の第一人者である八田秀雄先生が乳酸は疲労物質ではない、ということを広く周知され始めました。

今現在の理解では、乳酸は解糖系エネルギー代謝における中間代謝物質の一つであり疲労物質ではないと言って良いでしょう。

LTを高めるトレーニング

全力疾走

乳酸が急激に生成される運動強度がLTです。
LTを向上させることでより楽により長い距離を走ることができるようになります。
LT値は、マラソンなど持久系競技のパフォーマンス向上に直結しています。

では、具体的にどのようなトレーニングをすれば効果的なのでしょうか。

様々な論文が発表されているようですが、実は結論が出ていないようです。
LT値を高めるには、LTレベルの高強度トレーニングをするべきという意見があります。

しかし、それだとLTレベルでの運動効率は良くなってもラストスパートのようなトップパフォーマンスは高まらないという意見もあります。
その為、マラソンランナーのような持久系競技の選手でも全力ダッシュに近い強度で練習をしたほうが良いとする意見もあります。

その一方で、LT値よりやや下の40~50%の強度で、できるだけガソリンを使わないで走れる力を鍛えるボトムアップ作戦もパフォーマンスを高める効果があるとされています。

現時点ででは、LTレベルに近い高強度で短い、それよりも高強度で短い、もしくは低い強度で長いものを上手く組み合わせてトレーニングをしていくことが良いのではないかと思われます。
色々なトレーニングをして多種多様な負荷をかけ、身体に様々な能力を上げていくことです。
もちろんトレーニング内容は、個人個人に合わせて行うことが重要なので対象者によってやり方は変えていく必要があります。

また、トレーニング効果を得るには一定期間行う必要があるので、一定期間行って効果測定をしていきましょう。

乳酸の再利用を促すという観点からは、最初に強度の高い運動を行って、続いてLTレベルの運動を行うことも一つの方法と言えます。

LT強度では、乳酸を利用する能力を鍛えることができるので、最初に全力疾走で乳酸を多く作っておいた上でLTランニングをすれば、筋中乳酸を利用してエネルギーを得る能力を鍛えることができます。
「乳酸を作る能力」「乳酸を利用する能力」をセットにしてトレーニングすることは効果があると言えると思います。

今日のトレーニングで作られた乳酸が、翌日も筋肉内に残ることはありません。
疲労困憊になるような高強度の練習を行った翌日に軽く身体を動かすことはよくありますが、それが前日に蓄積をした「乳酸を取り除く」という目的であれば、あまり意味がないでしょう。
乳酸を取り除くのが目的であれば、試合後に軽く動かすようにしましょう。
これはアクティブレストと言って運動後に速やかに行う必要があります。