糖尿病の真犯人は脂質

コレステロール低下薬(スタチン)は糖尿病リスクと全身への悪影響

「コレステロール低下薬(スタチン)は糖尿病の発症リスクを高め、薬でコレステロールを下げると身体に悪影響が出る」という見解について、その根拠と、服用が身体に与える多岐にわたる影響を深く掘り下げて解説します。

誤解されがちなコレステロールの役割とスタチンのメカニズム

多くの人が「コレステロールは悪者」という認識を持っているかもしれません。
特に、糖尿病やその予備軍と診断された場合、心疾患リスクを低減するためとして、高コレステロール値の改善が強く勧められる傾向にあります。

そして、その際に処方されるのが「スタチン」と総称されるコレステロール低下薬です。
これは、高コレステロールが動脈硬化を引き起こし、心疾患のリスクを増大させるという、広く信じられている「都市伝説」に基づいています。

しかし、生物学的に見れば、コレステロールは生命維持に不可欠な重要な栄養素です。
細胞膜の構造を維持し、さまざまなホルモン(性ホルモンや副腎皮質ホルモンなど)やビタミンD、胆汁酸の原材料となります。

また、血管や神経細胞を保護する役割も担っています。
私たちが食事から摂取するコレステロールは全体のわずか2〜3割に過ぎず、残りの7〜8割は主に肝臓、小腸、脳などで体内で合成されています。
この合成プロセスは、糖質、タンパク質、脂質などがエネルギーに変換される際に生成されるアセチルCoAを原料として、複数の酵素が複雑に連携して行われます。

スタチンは、このコレステロール合成経路の鍵となる酵素であるHMG-CoA還元酵素の働きを阻害することで、コレステロールの生成を強力に抑制します。
確かにコレステロール値を下げる効果は高いのですが、この強力な抑制が、体内の多岐にわたる生理機能に予期せぬ悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。


スタチンが引き起こす全身への悪影響|単なる副作用以上の問題

頭を抱えて落ち込む女性

スタチンがコレステロール値を下げる一方で、その「強力さ」ゆえに、私たちの体に深刻な悪影響をもたらす可能性が複数の研究で示唆されています。
かつてはスタチンが動脈硬化を減らすと信じられていましたが、現在ではその認識が変わりつつあります。

最も懸念される点の一つが、細胞のエネルギー生産への影響です。
体内のあらゆる細胞、特に心臓や筋肉の細胞は、ミトコンドリアで効率的にエネルギー(ATP)を生産することで機能しています。

しかし、スタチンはミトコンドリアの機能に干渉し、エネルギー生産能力を低下させることがわかっています。
心臓が絶え間なく鼓動を続けるには膨大なエネルギーが必要であり、スタチンによるエネルギー不足は心筋の機能を損ない、心不全や心筋症のリスクを高める可能性があります。

同様に、骨格筋においてもエネルギー不足は深刻な問題です。
スタチンの代表的な副作用として知られる筋肉痛や筋力低下、さらには重症化すると筋肉が溶け出す横紋筋融解症は、このミトコンドリアの機能低下に起因すると考えられます。
狭心症や心筋梗塞が心臓へのエネルギー供給不足によって引き起こされるのと同様に、スタチンは全身の細胞で「エネルギー飢餓」の状態を作り出し、結果として動脈硬化や心不全を促進しかねないという逆説的な状況を生み出す可能性があるのです。

さらに、スタチンは体内の重要な生化学的経路にも干渉します。

  • ケトン体合成の抑制
    身体がブドウ糖の代わりにエネルギー源として利用するケトン体のミトコンドリア内での合成を阻害する可能性があります。
    これは、特に糖質制限などを行っている人にとってはエネルギー源の選択肢を奪うことになりかねません。
  • ビタミンK2合成の阻害
    血管の石灰化を防ぐ上で重要な役割を果たすビタミンK2の合成を阻害することで、動脈の石灰化をむしろ進行させるリスクが指摘されています。
  • 抗酸化酵素の減少
    細胞を酸化ストレスから保護する抗酸化酵素の産生を低下させることがあり、これにより全身の細胞がダメージを受けやすくなる可能性もあります。
    特に、この酵素の合成に必要なミネラルであるセレンが不足すると、心臓の筋肉に深刻な損傷を与え、心不全や心筋症に繋がることも示唆されています。

これらの多角的な影響は、スタチンが単にコレステロールを低下させるだけでなく、全身の代謝バランスと細胞機能に広範な悪影響をもたらす可能性を示唆しています。


スタチンと糖尿病発症リスクの衝撃的な関連性

コレステロール低下薬(スタチン)の服用が、糖尿病の発症リスクを有意に高めるという、看過できない事実が複数の大規模な疫学調査で明らかになっています。

米国で1999年から2010年にかけて約3万人を対象に行われた追跡調査では、スタチンを使用している人々の間で、11年間のうちに糖尿病を発症する割合が36%も増加したことが報告されました。
一方で、スタチンを使用していないグループでは、糖尿病者の割合にほとんど変化が見られませんでした。

また、閉経後の女性約15万人を対象とした別の米国での調査では、スタチン使用者は非使用者と比較して、平均で1.5倍も多く糖尿病を発症していることが判明しています。
フィンランドで45〜73歳の健康な男性を追跡した研究でも、同様にスタチン使用者の糖尿病発症率が約1.5倍高いという結果が示されました。

これらの調査は、もともと糖尿病ではない健康な人々が、コレステロール値が高いという理由だけでスタチンを処方された結果、新たな糖尿病を発症してしまう可能性を示唆しています。
これは、高コレステロール値を「敵」と見なして薬で下げることが、結果的に別の、より深刻な健康問題を引き起こしてしまうという、まさに「本末転倒」な状況と言えます。


なぜスタチンは糖尿病を引き起こすのか?メカニズムの解明

糖尿病

では、なぜスタチンが糖尿病の発症リスクを高めるのでしょうか。
そのメカニズムは複雑ですが、主にインスリンの作用を妨げる複数の経路が関与していると考えられています。

  • インスリン受容体の機能不全
    膵臓から分泌されるインスリンは、血液中のブドウ糖を細胞に取り込み、エネルギー源として利用したり貯蔵したりするよう促します。
    このインスリンを細胞内に受け入れるための「インスリン受容体」は、筋肉や肝臓などの細胞表面に存在し、特にコレステロールが豊富な領域に集中して機能します。
    スタチンによってコレステロールが減少すると、これらの受容体が細胞膜上で適切に集合できなくなり、インスリンとの結合や信号伝達が妨げられます。
    これにより、たとえ十分な量のインスリンが分泌されていても、細胞がブドウ糖を取り込めなくなり、血糖値が上昇しやすくなります。
  • ドリコール不足による受容体活性化の阻害
    コレステロール合成の中間体として「ドリコール」という物質が生成されます。
    このドリコールは、細胞内でさまざまな糖を運搬する重要な役割を担っており、インスリン受容体が合成され、糖と結合して「活性化」する過程に不可欠です。
    スタチンはコレステロール合成経路の初期段階を阻害するため、ドリコールの生成も不足しがちになります。
    結果として、インスリン受容体が十分に活性化されず、インスリンがうまく機能できなくなってしまうのです。
  • インスリン生産・分泌の阻害
    インスリン自体もタンパク質から作られます。
    膵臓がインスリンを合成・分泌する過程では、「Rab」と呼ばれる特定のタンパク質の加工が必要とされます。
    スタチンはこのRabタンパク質の加工プロセスを妨害する可能性があり、その結果、膵臓からのインスリンの生産量や分泌量が減少してしまう可能性があります。

これらの複数の経路が複合的に作用することで、スタチンはインスリン抵抗性を引き起こしたり、インスリンの分泌を低下させたりし、最終的に糖尿病の発症リスクを高めてしまうと考えられています。


運動療法の効果を減退させるスタチン|糖尿病治療への影響

運動する女性

糖尿病の治療や予防において、運動療法は非常に重要です。
しかし、スタチンは運動療法の効果をも妨げてしまう可能性が指摘されています。

前述の通り、スタチンは細胞のミトコンドリアのエネルギー生産機能を低下させます。
これは、特に運動時に大量のエネルギーを必要とする筋肉にとって大きな問題です。
スタチンを服用すると、筋肉細胞が十分なエネルギーを生成できなくなり、結果として筋肉の障害や筋力低下が生じやすくなります。

スタチンの服用を開始すると、初期には「運動しすぎたような筋肉痛」を感じることがあります。
これは、筋肉が十分なエネルギーを得られずにダメージを受けているサインかもしれません。
やがて、筋肉が溶け出す「横紋筋融解症」のような状態に進むと、過度な運動はおろか、日常生活の動作さえも困難になることがあります。
このように、スタチンは身体活動そのものを阻害し、糖尿病の管理に不可欠な運動習慣の継続を難しくしてしまうのです。

実際に、糖尿病患者を対象とした臨床試験では、スタチンが心臓・脳血管疾患に対する明確な予防効果を示さず、
逆に糖尿病を発症させる、あるいは悪化させる可能性があることが示唆されています。
これらのエビデンスに基づけば、特に糖尿病患者、または糖尿病のリスクが高い人々にとって、スタチンはむしろ健康を損なう可能性のある「禁忌」の薬剤とみなすべきである、という非常に重要な示唆が得られます。


まとめ|コレステロール値と向き合う新たな視点

これまでの議論を通じて、コレステロール低下薬(スタチン)が私たちの体に与える影響は、単にコレステロール値を下げるという単純なものではなく、糖尿病発症リスクの増加をはじめ、心血管系、筋肉、そして体全体のエネルギー代謝に多岐にわたる深刻な悪影響をもたらす可能性があることが明らかになりました。

私たちが「悪者」とみなしがちなコレステロールは、実は細胞の健全な機能やホルモン生成に不可欠な栄養素であり、その大半は体内で緻密に調整されながら合成されています。
スタチンは、この生命維持に重要な生合成経路を強力に阻害することで、体内のエネルギー生産機能(ミトコンドリアの働き)を低下させ、心筋や骨格筋にダメージを与える可能性があります。
これは、心臓のエネルギー不足を引き起こし、筋肉痛や筋力低下、さらには横紋筋融解症といった副作用へと繋がります。

何よりも警鐘を鳴らすべきは、複数の大規模な研究が示したスタチンと糖尿病発症リスクの明確な関連性です。
インスリン受容体の機能不全、ドリコール不足による受容体活性化の阻害、さらにはインスリン自体の生産・分泌の妨害といったメカニズムを通じて、スタチンはインスリンの作用を阻害し、結果的に血糖値の上昇、ひいては糖尿病の発症・悪化を招く可能性が高いのです。
これは、特に健康な人が高コレステロールという理由だけでスタチンを服用し、新たな糖尿病患者となるリスクを抱えることを意味します。

また、糖尿病の管理に不可欠な運動療法に対しても、スタチンは筋肉への悪影響を通じてその効果を妨げることが示唆されています。
筋肉のエネルギー産生能力を低下させ、筋力低下や筋肉痛を引き起こすことで、活動的なライフスタイルを維持することを困難にします。

これらの知見は、コレステロール値の管理において、薬物療法に安易に頼るのではなく、より根本的なアプローチの重要性を強く示唆しています。
食生活の改善、適度な運動、ストレス管理といった生活習慣の見直しこそが、心血管疾患リスクの低減と糖尿病予防・改善の両面において、より持続可能で体に優しい解決策となり得るでしょう。

医療の専門家と相談する際には、これらのリスクや潜在的な副作用について十分に理解し、個々の健康状態やライフスタイルに合わせた最適な選択肢を共に検討することが非常に重要です。
薬の服用は慎重に、そしてその効果とリスクを天秤にかける多角的な視点を持つことが、私たちの健康を守る上で不可欠です。

参考書籍⇒糖尿病は、体にいいはずの油が原因だった