トレーニング・フィットネス

筋力アップの秘訣|6秒以下の運動スピードと週単位の総負荷量がカギ!

筋力アップと筋肥大の違い|効果を高めるトレーニングスピードとは?

筋力トレーニングと聞くと、「筋肉を大きくする(筋肥大)」ことと「筋力を強くする(筋力増強)」ことを同じように捉えがちだと思います。
しかし、実はこれら二つの目的には異なるトレーニングアプローチが効果的です。
近年のスポーツ科学では、筋肉を効率的に大きくするには、一般的に8秒以下の動作スピードが推奨されています。
では、筋力を向上させる為には、どのような運動スピードが最適なのでしょうか?

この疑問に対し、2017年にシドニー大学のデイヴィースらが発表した、筋力増強効果を最大化する運動スピードに関する世界初のメタアナリシス(複数の研究結果を統合・分析する手法)は、非常に重要な知見を提供しています。
彼らは15の研究報告(被験者総数509名、年齢19〜73歳、トレーニング経験の有無不問)を解析し、以下の結論を導き出しました。

  • 筋力増強効果は、6秒以下の運動スピードで最大化される。

この解析では、運動スピードを「速い(2〜4秒)」と「中程度〜遅い(4.7〜6秒)」の2グループに分けて比較しました。
結果として、速いグループで21.6%、中程度〜遅いグループで20.6%の筋力増強効果が示され、統計的に有意な差は認められませんでした。
つまり、6秒以内であれば、速いスピードでも遅いスピードでも、筋力増強効果に大きな違いはないということが示唆されたのです。

さらに、運動スピードはトレーニング強度に影響されるので(低強度では速く、高強度では遅くなる)、デイヴィースらはトレーニング強度の影響を検証する為のサブグループ解析も行いました。
その結果、トレーニング強度が中程度の場合に限っては、運動スピードが速い方が筋力増強効果がやや高いことが判明しました。

また、年齢やトレーニング経験の有無がこの結果に影響を与えないことも確認されました。
これらの結果を総合すると、年齢やトレーニング経験に関わらず、6秒以下の運動スピードが筋力増強の効果を最大化するということが強く示唆されます。
これは、筋肥大に効果的とされる8秒以下の運動スピードとは異なる、筋力増強に特化した重要な知見と言えると思います。

筋力向上の鍵は「神経活動の適応」|速筋線維の動員が重要

ニューロン

筋肥大と筋力増強で最適な動作スピードが異なる理由として、神経活動の適応が深く関わっていると考えられています。
筋力を高める目的の場合、強い力を素早く発揮し、収縮速度の速いタイプII線維(速筋線維)を効率的に鍛える必要があります。

そのた為には、筋肥大を目的としたトレーニングよりも、より速い運動スピードで、かつ高強度のトレーニングを行うことが有効になります。
このようなトレーニングを繰り返し行うことで、脳から筋肉への指令伝達が改善され、より多くのタイプII線維を効率的に動員できるようになります。
この神経系の適応こそが、筋力増強の鍵となるメカニズムです。
具体的には、以下の神経活動の変化が挙げられます。

  • 運動単位の動員
    一つの神経細胞が支配する筋線維の数が増加し、より多くの筋線維を一度に収縮させられるようになる。
  • 発火頻度の増加
    神経細胞から筋肉への電気信号の頻度が増し、より強い収縮力を生み出す。
  • 同期化の改善
    複数の運動単位が同時に活性化されるようになり、筋収縮の協調性が高まる。

筋力増強の効果は、「筋肥大」と「神経活動の適応」の組み合わせによって決まります。
ここで注目すべきは、筋肥大が加齢によって影響を受けやすい(筋タンパク質合成抵抗性が示唆される)のに対し、神経活動の適応は加齢による影響が小さいとされている点です。
なので、筋力増強は筋肥大ほど年齢の影響を受けにくいと考えられ、高齢者でも筋力アップが見込める理由の一つとなっています。

また、トレーニング経験者のほうが未経験者よりも神経活動の適応が優れているというわけではなく、トレーニング経験の有無が筋力増強効果に大きく影響することは少ないとされています。
デイヴィースらのメタアナリシスによる結論は、アメリカスポーツ医学会(ACSM)の公式声明とも一致しており、筋力トレーニングの新たな常識として認識されつつあります。

週のトレーニング頻度と総負荷量|筋力アップを最大化する最新のアプローチ

ランジトレーニング

筋力トレーニングの「頻度」については、長らく議論されてきました。
アメリカスポーツ医学会は2009年の公式声明で、筋力増強の為には「週2〜3回の頻度が推奨される」と述べていましたが、実はこの推奨には明確な科学的根拠がなく、経験則に基づいた概念的なものに過ぎないという認識が広まっていました。

しかし近年、スポーツ科学の分野では「週単位のトレーニング頻度」が大きな研究トピックとなっており、2018年にはその有効性を示す二つの重要なメタアナリシスが報告されました。

まず、ヴィクトリア大学のGrgicらが行った22の研究報告に基づく解析では、週の頻度と筋力増強効果の関連が詳細に調べられました。
その結果、週のトレーニング頻度を増やすことで、筋力増強効果が有意に高まることが示唆されました。

さらに彼らは、トレーニング内容(単関節トレーニングと多関節トレーニング)、年齢、性別による効果の違いについても解析しました。

  • 単関節トレーニング(例: アームカール)
    週の頻度による筋力増強効果に大きな差は見られませんでした。
  • 多関節トレーニング(例: ベンチプレス、スクワット)
    週の頻度が増加するにつれて、筋力増強効果が高まることが明確に示されました。

この違いは、多関節トレーニングのほうが単関節トレーニングよりも、より多くの筋肉を同時に、かつ強い力で収縮させる必要があるので、神経活動の適応に総負荷量がより強く関与していることを意味しています。
複数の筋肉を協調させて強い力を発揮するには、トレーニングを通じて運動単位の動員や同期、神経活動の発火頻度などを効率的に学習させる必要があります。
その為には、適切な回数と頻度が必要となり、結果的に週単位の総負荷量も高くなります。

また、年齢や性別に関する解析では、若年者において週の頻度が増えるほど筋力増強効果も高まることが示されました。
興味深いことに、男性よりも女性の方が、週の頻度に応じて筋力増強の効果が高まるという結果も示されています。
これらの結果は、筋力増強効果も筋肥大と同様に、週の頻度に応じて高まる可能性があることを明確にしました。

では、週単位の総負荷量が同じであれば、週の頻度を変えても筋力増強効果は変わらないのでしょうか?

この疑問に対し、イギリス・西スコットランド大学のラルストンらは、週単位の総負荷量が同じ場合に週の頻度によって筋力増強効果が変化するかを検証した12の研究報告をもとにメタアナリシスを行いました。
この解析では、週の頻度を「週1回の低頻度」「週2回の中頻度」「週3回以上の高頻度」に分けて比較されました。

その結果、週単位の総負荷量が同じであれば、週の頻度を変えても筋力増強効果に有意な差は認められませんでした。
この重要な結果は、筋肥大の場合と同様に、筋力増強においても「週単位の総負荷量」がトレーニング効果の最も重要な指標になることを示しています。

まとめ|筋力アップには「6秒以下」と「総負荷量管理」が不可欠

現代のスポーツ科学において、筋肥大と筋力増強に関する新たな常識が確立されつつあります。

  1. 筋力増強効果は、6秒以下の運動スピードで最大化される。
    特に中程度の強度では、より速いスピードが有効となる可能性があります。
    これは、筋力を高めるのに必要な「神経活動の適応」を促すためです。
  2. 筋力増強効果も筋肥大と同様に、週の頻度が増えれば高まる傾向がある。
    特に多関節トレーニングにおいて顕著です。
  3. 最終的に筋力増強においても「週単位の総負荷量」が最も重要な指標となる。
    総負荷量が同じであれば、週の頻度を変えても効果に大きな差は見られません。

これらの知見を踏まえると、筋力アップを目指すトレーニング戦略として、以下の点が非常に重要になります。

  • 動作スピードの意識
    各レップを6秒以内、特に中程度の強度では意識的に速いスピードで行うことを試みましょう。
  • 多関節運動の重視
    ベンチプレス、スクワット、デッドリフトなどの多関節運動をトレーニングの中心に据え、効率的に神経活動の適応を促しましょう。
  • 総負荷量の管理
    オーバーワークにならない範囲で、週単位の総負荷量を目標として設定し、これを基準にトレーニングを計画しましょう。
    体調や疲労度に合わせて、週の頻度やセット数、レップ数を柔軟に調整していくことが、効果的かつ継続的な筋力アップには不可欠です。

闇雲にトレーニングを行うのではなく、これらの科学的根拠に基づいたアプローチを取り入れることで、筋力アップはより効率的で確実なものとなるのではないでしょうか。