健康

肥満はアルツハイマー型認知症のリスク?知られざる全身の「炎症」との深い関係性

はじめに

近年、肥満は多くの健康問題と密接に関わっていることが明らかになっています。
単に見た目の変化だけでなく、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の引き金となることは広く知られていますが、実はアルツハイマー型認知症や女性特有の疾患、さらには全身の慢性的な炎症にも深く関わっていることが分かってきました。

日本人における肥満の現状から、なぜ肥満が様々な病気を引き起こすのか、その知られざるメカニズムについて詳しく解説します。
そして、肥満を予防・改善し、健康的な生活を送るための具体的な方法についてもご紹介します。
ご自身の健康を見つめ直すきっかになればと思います。

日本人の肥満が引き起こす深刻な健康リスクの現状

「肥満」とは、単に体重が多いことだけを指すのではなく、身体に体脂肪が過剰に蓄積した状態を意味します。
この状態は、見た目の問題だけでなく、さまざまな深刻な健康問題を引き起こすことが科学的に証明されています。
肥満かどうかを判断する際には、主に身長と体重から算出されるBMI(Body Mass Index)が用いられます。
日本肥満学会では、BMIが25以上で肥満、35以上で高度肥満と分類しており、健康診断などでご自身のBMIを目にした方も多いのではないでしょうか。

厚生労働省が実施した2019年の「国民健康・栄養調査」によると、日本人の肥満の割合は男性で33%、女性で22.3%に達しています。
特に男性の肥満率は2013年以降増加傾向にあり、働き盛りの40代男性では約39.7%と、ほぼ4割が肥満に該当するという驚くべきデータもあります。
この背景には、加齢による基礎代謝量の低下に加え、日々の運動習慣の不足や、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒習慣などが深く関連していると考えられます。

一方、女性では60代が最も肥満の割合が高く、28.1%となっています。
男性と同様に加齢による基礎代謝の低下は影響しますが、女性においては更年期も肥満に大きく影響を及ぼす要因です。
更年期は閉経前後の数年間を指し、この時期に女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に低下します。
エストロゲンは脂質の代謝を促進する働きがあるため、その分泌量が減少することで身体が太りやすくなる傾向があります。
年齢を重ねても適正な体重を維持するには、日々の運動習慣を身につけて代謝の低下を防ぎ、バランスの取れた食事を心がけることが極めて重要です。

肥満とアルツハイマー型認知症の知られざる関連性とそのメカニズム

脳伝達イメージ

肥満が引き起こす健康問題は、一般的な高血圧や糖尿病といった生活習慣病だけにとどまりません。
近年、肥満はアルツハイマー型認知症の発症にも深く関わっていることが、多くの研究で指摘されています。
アルツハイマー型認知症は、脳細胞に「アミロイドβ」という異常なタンパク質が沈着することで発症すると考えられています。

このアミロイドβを脳から排出するプロセスには、「インスリン分解酵素」が重要な役割を担っていることが分かっています。
しかし、内臓脂肪が増加すると、体内でインスリンの効き目が悪くなる「インスリン抵抗性」と呼ばれる状態に陥ります。
インスリン抵抗性が高まると、血糖値を正常に保つために膵臓から大量のインスリンが分泌されます。
すると、インスリン分解酵素が過剰なインスリンの処理に追われることになり、本来の役割であるアミロイドβの分解に手が回らなくなってしまいます。
その結果、脳内にアミロイドβが蓄積しやすくなり、アルツハイマー型認知症の発症リスクが上昇すると考えられています。
肥満が脳の健康にも影響を及ぼすという事実は、決して軽視できない重要なポイントです。

女性特有の疾患リスクと肥満|ホルモンバランスへの影響

肥満は、女性特有の健康問題にも深く関連しています。
特に、肥満は女性のホルモンバランスを大きく乱す原因となり、それが月経不順や不妊といった女性疾患につながることがあります。

多くの人が女性ホルモンであるエストロゲンは卵巣からのみ分泌されると考えていますが、実は脂肪細胞もエストロゲンを分泌する機能を持っています。
なので、肥満になると脂肪細胞からのエストロゲン分泌が増加し、体内のホルモンバランスが崩れる危険性が高まります。
エストロゲンが過剰になることで、子宮内膜症や子宮筋腫のリスクも増大する可能性があります。

さらに深刻なのは、閉経後の肥満が乳がんや子宮体がんといった特定の女性がんのリスクを上昇させることです。
閉経後は卵巣からのエストロゲン分泌は大幅に低下しますが、肥満によって脂肪組織が多ければ、脂肪細胞からのエストロゲン分泌が継続され、場合によっては増加することさえあります。
乳がんや子宮体がんの多くは、がん細胞内にあるエストロゲン受容体とエストロゲンが結合することでがん細胞が増殖すると言われています。
したがって、肥満によってエストロゲンの分泌量が多い状態が続くことは、これらの女性がんの発症リスクを顕著に高める要因となるのです。

肥満が引き起こす「全身の慢性炎症」のメカニズム

メディカル

肥満の状態は、身体全体で慢性的な炎症が起きている状態であると考えられます。
脂肪細胞は単にエネルギーを貯蔵するだけの組織ではありません。
実は、脳や腸などの身体の臓器や組織と密接に情報交換を行い、身体の機能を整えるために必要な生理活性物質を分泌する重要な役割を担っています。
これらの生理活性物質は「アディポサイトカイン」と呼ばれています。

アディポサイトカインには、身体にとって有益な働きをする「抗炎症性アディポサイトカイン」と、炎症を促進する「炎症性アディポサイトカイン」の2種類があります。

抗炎症性アディポサイトカインの例としては、食欲を抑制する働きを持つ「レプチン」や、動脈硬化などを防ぐ働きを持つ「アディポネクチン」が挙げられます。

一方、炎症性アディポサイトカインには、インスリンの働きを抑制し糖代謝を悪化させる「TNF-α(腫瘍壊死因子α)」、血栓を作りやすくして動脈硬化を促進する「PAI-1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1)」、血圧を上昇させる作用を持つ「アンジオテンシノーゲン」などがあります。

肥満になると、このアディポサイトカインの分泌バランスが大きく変化します。
具体的には、抗炎症性サイトカインであるアディポネクチンの分泌量は減少し、逆に炎症性サイトカインであるTNF-α、PAI-1、アンジオテンシノーゲンの分泌量が増加します。

また、抗炎症性サイトカインの一つであるレプチンは、肥満状態では効きにくくなる(レプチン抵抗性)ため、食欲が低下しにくくなり、悪循環に陥ります。

さらに、脂肪が過剰に蓄積した脂肪細胞には、マクロファージなどの免疫細胞が大量に集まってきます。
集まってきたマクロファージは脂肪細胞を刺激し、炎症性サイトカインの分泌をさらに促進します。
加えて、マクロファージは脂肪細胞の分解も促進するため、飽和脂肪酸などの炎症を悪化させる物質が増加します。
この飽和脂肪酸がさらにマクロファージを活性化させ、脂肪細胞を刺激するという悪循環が生じ、炎症が慢性化していきます。
このようにして、肥満は全身で慢性的な炎症を引き起こし、最終的に高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の発症へとつながっていきます。

まとめ|肥満を克服し、健康的な未来を築くための具体的なステップ

躍動感女性

肥満は、単なる体重増加ではなく、アルツハイマー型認知症、女性特有の疾患、そして全身の慢性炎症といった、非常に多岐にわたる深刻な健康リスクと深く関連しています。
これらのリスクを低減し、健康で充実した生活を送るには、肥満を予防し必要であれば改善していくことが極めて重要です。

肥満を予防・改善するための具体的な3つのステップ

  1. バランスの取れた食生活の実践
    食事の基本は、身体に必要な栄養素を過不足なく摂取することです。
    炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルといった五大栄養素をバランス良く摂ることを心がけましょう。
    これにより、身体の代謝が円滑になり、太りにくい体質へと改善されます。
    カロリー制限も重要ですが、まずは代謝を高めるために栄養バランスを意識することが第一歩です。
    加工食品や糖質の多い飲料の摂取を控え、野菜、果物、全粒穀物、良質なタンパク質を積極的に取り入れることが推奨されます。
  2. 質の良い十分な睡眠の確保
    睡眠不足は、食欲を増進させるホルモン(グレリン)と食欲を抑制するホルモン(レプチン)のバランスを乱す原因となります。
    これにより、食欲が増進したり、インスリン抵抗性が悪化したりして肥満につながることがあります。
    毎日十分な睡眠時間を確保し、できるだけ毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい生活リズムを確立することが大切です。
    質の良い睡眠は、心身の健康を保つ上で欠かせません。
  3. 適度な運動の習慣化
    運動は、筋肉の衰えを防ぎ、血流を改善し、身体の代謝を促進します。
    特に、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることで、脂肪燃焼効果を高め、基礎代謝を向上させることができます。
    ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動を週に150分以上、筋力トレーニングを週に2〜3回行うことが推奨されます。
    運動は、肥満だけでなく、様々な生活習慣病の予防にも効果的であり、精神的な健康維持にも貢献します。

適正な体重を維持し、肥満からくる健康リスクを避けるためには、日々の食事、睡眠、運動、そして規則正しい生活習慣を意識することが不可欠です。
今日からできる小さな一歩を踏み出し、より健康的な未来を築きませんか?