ダッシュ力を極める!スプリント持久力で試合終盤も加速し続ける秘訣
「試合の終盤、もうひと伸びしたいのに足が動かない…」「決定的なチャンスで、あと一歩が出ない…」
多くのアスリートが直面するこの課題。その解決の鍵を握るのが、スプリント持久力です。
サッカー、バスケットボール、ラグビー、テニスなど、繰り返しダッシュが求められる球技において、スプリント持久力は単なる体力ではなく、勝敗を左右する戦略的な能力となります。
本記事では、スプリント持久力の重要性を深く掘り下げ、その科学的なメカニズム、そして効果的なトレーニング方法について、より解説していきたいと思います。
スプリント持久力とは?なぜ現代アスリートに不可欠なのか?
スプリント持久力は英語で「Repeated Sprint Ability(RSA)」と表現され、その直訳の通り、「ダッシュを何度も反復できる能力」を指します。
短距離走のように一度の全力疾走で終わるのではなく、試合中に何度も急加速、減速、方向転換を繰り返すような、いわゆる「間欠的運動」が頻繁に発生する競技で特に重視されます。
サッカーの試合中、攻撃から守備への切り替えで瞬時にダッシュし、相手のパスコースを塞ぐ。
バスケットボールで、速攻の際にコートを縦断し、シュートを決めた後、すぐに守備に戻る。
これらの動作は、一回のダッシュでは成り立ちません。
試合を通して何度も、時には数十回ものダッシュすることが求められます。
試合の序盤は全力でダッシュできても、終盤に差し掛かると、足が重くなり、スピードが落ち、ダッシュできる時間も短くなる選手は少なくありません。
ですが、優れたスプリント持久力を持つ選手は、試合の経過とともに疲労が蓄積されても、高いスピードを維持し、さらに速いダッシュを何度も繰り返すことができます。
これにより、相手を置き去りにし、決定的なプレーを生み出すことが可能になります。
これは、現代スポーツにおいて、戦術的な優位性を確立するための不可欠な要素と言えます。
スピードの「維持」だけでなく「向上」も追求する重要性

スプリント持久力のトレーニングと聞くと、「スピードを維持するための練習」という側面が強調されがちです。
しかし、真にハイパフォーマンスな選手を目指すのであれば、単にスピードを維持するだけでなく、「最大スピード(スプリント能力の上限)の向上」も同時に追求することが不可欠です。
これは、高強度の運動を繰り返す中で、より高い筋出力を維持する必要があるからです。
例えば、サッカーやバスケットボールでは、相手選手との身体的な接触を伴いながらのダッシュやジャンプ、ボールキープといった状況が頻繁におこります。
このような場面では、瞬間的に強い筋力発揮が求められます。
高強度運動の主要なエネルギー源は、筋肉内の糖を分解してエネルギーを得る「解糖系」です。
この解糖系は短時間で大きなパワーを生み出しますが、疲労も蓄積しやすいという特徴があります。
高強度のダッシュを繰り返し行うためには、この解糖系へのエネルギー供給を効率的に行い、かつ疲労からの回復を早める必要があります。
ここで重要になるのが、「ミトコンドリア」の働きと「速筋の持久力」です。
ミトコンドリアは細胞内のエネルギー工場とも呼ばれ、糖や脂肪を効率的に利用してエネルギーを生み出します。
高強度の運動を繰り返すことで、速筋線維(瞬発的な力の発揮に関わる筋肉)内のミトコンドリアを活性化させ、エネルギー供給能力を高めることが、高強度筋出力の反復、すなわちスプリント持久力向上に直結します。
つまり、スプリント持久力を高めるトレーニングは、単に「疲労しにくい身体」を作るだけでなく、「より速く、より力強くダッシュできる身体」を作るためのアプローチになります。。
最大発揮能力とその維持という観点から見れば、筋力そのものもスプリント持久力に大きく関係していると言えます。
スプリント持久力を高める科学的トレーニング|HIITの活用
スプリント持久力を効率的に向上させるための最も効果的なトレーニング方法の一つが、IHIT(高強度インターバルトレーニング)です。
HIITは、高負荷の運動と短い休息を交互に繰り返すトレーニング形式で、心肺機能だけでなく、ダッシュに必要な筋力や瞬発力、そして疲労回復能力を同時に効率的に鍛えることができます。
HIITの概念は古くから存在しますが、その効果を学術的に示したのが、立命館大学の田畑泉氏の研究です。
田畑氏が考案した「タバタプロトコル」は、20秒の運動と10秒の休息を8セット繰り返す(合計4分間)というもので、これはスピードスケート日本代表選手が最高速度を維持する目的で導入されたことから、その名が知られるようになりました。
スピードスケートの試合では、短時間に全力で滑走し、その後一定の休息を挟んで次のレースに臨むといった特性があります。
この競技特性に合わせ、選手が最高速度を維持するための試行錯誤の結果、HIITがその強化の方法として取り入れられました。
ダッシュを何度も繰り返す球技においても、このHIITの原理は非常に有効に機能します。
HIITをトレーニングに導入する際のポイント
- 最大能力を高める筋力トレーニングとの併用
HIITは速筋の持久力向上には非常に効果的ですが、筋肉の最大筋力そのものを飛躍的に高める効果は限定的です。
スプリント能力の「上限」をさらに引き上げるためには、スクワットやデッドリフトなどの高重量の筋力トレーニングも組み合わせることが重要です。
これにより、一回あたりのダッシュの最高速度を向上させ、それを繰り返す能力を高めることができます。 - ジュニア年代への導入の慎重さ
成長期のジュニア年代の選手にとって、過度な筋力トレーニングや高強度のHIITは、身体への負担が大きくなる可能性があります。
特に小学生の場合、専門的能力や運動能力を高めることよりも、まずはスポーツを楽しむこと、身体を動かすことの面白さを感じてもらうことが最優先です。
基本的な運動能力(走る、跳ぶ、投げるなど)を総合的に高めることや、コーディネーション能力を養うことに重点を置き、筋力トレーニングや専門的な高強度トレーニングは、骨格や筋肉が成熟し始める高校生くらいから段階的に導入していくのが良いかと思います。 - 競技特性に合わせた負荷設定
HIITの実施においては、各競技のダッシュ距離や時間、回復時間を考慮し、最適な負荷設定を行うことが重要です。
例えば、サッカーであれば20~40m程度のダッシュを繰り返し、バスケットボールであればフルコートダッシュやシャトルランのような形式を取り入れるなど、競技に即した形でトレーニングを組み立てることで、実践的なスプリント持久力を養うことができます。
「根性論」だけでは不十分?意図的な反復練習の重要性

「もっと走り込め!」「根性を出して最後までやれ!」
かつてのスポーツ界では、精神論や根性論に基づく長時間の反復練習が、体力向上の一手段として捉えられてきました。
これも高強度間欠トレーニングの一種と考えることもできます。
ですが、そこに明確な「狙い」や「意図」がなければ、単に選手が疲弊し、心身ともに疲労困憊するだけの練習に終わってしまう可能性もあります。
効果的な反復練習にするための具体的な注意点
- 目的を明確に選手に伝える
練習の前に、そのメニューが何のために行われるのか、どのような効果を期待しているのかを指導者が明確に理解し、そして選手にも具体的に伝えることが不可欠です。
選手が「何の意味があるのか分からないけど、やらされている」と感じるような練習では、モチベーションの低下だけでなく、パフォーマンス向上にも繋がりません。
例えば、「このダッシュは、試合終盤でのスプリント能力を維持するための練習だ」「この切り返しは、相手をかわす瞬発力を養うためのものだ」といった具体的な説明を加えることで、選手の練習への集中力と理解度が高まります。 - 100%の能力を引き出す設定と休息
反復練習を行う際、選手が毎回100%の能力を発揮できるような設定になっているかを常に考慮する必要があります。
例えば、ダッシュ練習で疲労がピークに達し、スピードが著しく落ちているにもかかわらず、休憩を与えずに「もう1本!」と繰り返しても、質の高いトレーニングにはなりません。
むしろ、フォームが崩れたり、怪我のリスクが高まったりする可能性があります。
適切な休息時間を設け、次のダッシュで最大限の力を発揮できるような条件を整えることが、質の高い反復練習には不可欠です。選手一人ひとりの疲労度や回復能力を見極め、個別に対応することも重要です。 - 競技の状況を考慮した実践的な練習
例えば、野球の「1000本ノック」や、バスケットボールの「ひたすらダッシュを繰り返す」といった練習は、体力の強化には繋がるかもしれませんが、実際の競技ではほとんど発生しない状況での練習になりがちです。
走ってフライを追いかける練習は良いですが、何回か繰り返せば当然疲れてきます。
その時に、ボールを捕れないと「捕れるまでやり直し」というやり方になっていないでしょうか。
疲労困憊の中でフォームが崩れ、捕球スキルも低下してしまうようでは、一体何の練習なのか分からなくなってしまいます。
体力強化と競技スキル練習は、それぞれ別の目的を持つことを理解し、必要に応じて融合させることが重要です。
グラウンドでの練習の最初や最後に体力トレーニングを行う場合でも、それが「体力の練習にも、競技スキルの練習にもなっていない」という状況を避けるべきです。
実際の試合状況を想定し、瞬時の判断力、身体的な接触、ボールを扱うスキルなど、外的要素に応じた力発揮の繰り返しを意識したトレーニングを組み合わせることで、より実践的なスプリント持久力を養うことができます。
まとめ|スプリント持久力は勝利へのパスポート
スプリント持久力は、サッカーやバスケットボールなど、繰り返しダッシュが求められる現代の多くのスポーツにおいて、選手がパフォーマンスを最大限に発揮し、試合を優位に進めるために不可欠な能力です。
単に速く走るだけでなく、そのスピードを試合を通して維持し、さらに向上させるという多角的なアプローチが求められます。
HIITのような科学的なトレーニング方法を導入しつつ、単なる根性論に終わらない「意図的」な反復練習を行うこと。
そして、選手一人ひとりの成長段階や競技特性を考慮した上で、筋力トレーニングと持久力トレーニングのバランスを見極めること。
これら全てが、試合終盤でも加速し続けられる真のダッシュ力を手に入れ、勝利へと導く鍵となります。
スプリント持久力を高め、競技でのパフォーマンスを飛躍的に向上させていきましょう。










