健康

体内の浄化システム|老廃物と有害物質のデトックスメカニズムを解説

私たちの身体は、日々、生命活動を維持する為に様々な物質を代謝し、その過程で不要なものや有害なものを生み出しています。
また、外部環境からも知らず知らずのうちに有害物質を取り込んでいます。
これらの不要な物質が体内に蓄積すると、健康に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。
体内の浄化プロセスは、これらの物質を効率的に排出し、健康を維持するために不可欠なシステムです。
デトックスは医学用語ではありませんが、このシステムが「デトックス」と俗に呼ばれています。

この記事では、体内で生成される代表的な老廃物と、外部から侵入する主要な有害物質に焦点を当て、それらがどのように生成され、なぜ排出される必要があるのかを解説していきます。

生命活動が生み出す老廃物:代謝の副産物とその影響

私たちの身体は、食事から摂取した栄養素をエネルギーに変換する「代謝」という複雑なプロセスを常に行っています。
この代謝の過程で、エネルギーを生み出すのと同時に、副産物として様々な「老廃物」が生成されます。
これらの老廃物は、放置すると体内に蓄積し、健康問題を引き起こす可能性があるので、効率的に体外へ排出される必要があります。

私たちのエネルギー源となるのは、細胞内で三大栄養素(糖質、脂質、タンパク質)を代謝して作られるATP(アデノシン三リン酸)という物質です。
ATPは、核酸と糖、そして3つのリン酸が結合した構造をしています。
このリン酸の結合が一つ外れてADP(アデノシン二リン酸)に変化する際に、私たちの身体が利用できるエネルギーが発生します。
ADPは再びリン酸と結合してATPに戻り、エネルギーを繰り返し生み出すことができる、まさに「エネルギーの通貨」とも言える存在です。
しかし、このATPの生成や利用の過程で、いくつかの老廃物が避けられない形で生み出されます。

老廃物の代表的なものとして、クレアチニン、尿酸、アンモニアが挙げられます。

運動する女性

1. 筋肉を動かすと作られる「クレアチニン」

クレアチニンは、主に筋肉を動かす際に生成される老廃物です。
筋肉が収縮するたびに、エネルギー源であるATPが消費されますが、筋肉には限られた量のATPしか蓄えられていません。
ですので、筋肉はATPを補充するための複数の代謝経路を持っています。
その一つが、クレアチンリン酸システムです。

クレアチンは、アミノ酸(アルギニン、グリシン、メチオニン)を材料として主に肝臓で合成される物質です。
このクレアチンは筋肉に運ばれ、リン酸と結合することでクレアチンリン酸となります。
クレアチンリン酸は、エネルギーが不足した際にADPにリン酸を素早く渡し、ATPを再合成する役割を担っています。
これにより、筋肉は瞬時にエネルギーを補充し、高強度の運動を継続することができます。

しかし、クレアチンはリン酸との結合・解離を永遠に繰り返すことはできません。
その一部は、代謝の過程で不可逆的に分解され、クレアチニンへと変化します。
クレアチニンは、身体にとって不要な老廃物で、血液中に放出され、主に腎臓によってろ過され、尿として体外に排出されます。

血液中のクレアチニン濃度は、腎機能の重要な指標として用いられています。
健康な腎臓であれば、生成されたクレアチニンはほぼ100%尿として排出されますが、腎機能が低下すると、クレアチニンが十分に排出されずに血液中に蓄積し、血中濃度が高くなります。
血中クレアチニンが高値になると、むくみ、貧血、倦怠感などの症状が現れることがあります。

ただし、クレアチニンは筋肉のエネルギー代謝の副産物であるため、筋肉量が多い人(例えば、ボディビルダーやアスリート)では、腎機能が正常であっても血中クレアチニン値が高くなる傾向があります。
なので、腎機能の診断においては、血液中のクレアチニン値だけでなく、尿中のタンパク質やその他の検査数値と併せて総合的に判断されるのが一般的です。

2. エネルギー代謝でも作られる「尿酸」

尿酸と聞くと、フォアグラや白子、レバー、魚卵といったプリン体を多く含む食品をイメージする方も多いかもしれません。
確かに食品由来のプリン体も尿酸の生成に関わりますが、実は体内の尿酸の7〜8割は、私たちの身体のエネルギー代謝の過程で体内で作られています。

私たちのエネルギー源であるATPは、その構造にプリン体という物質を含んでいます。
激しい運動などでエネルギー消費量が増加し、ATPの合成が追いつかなくなると、分解されたADPが体内に増加します。
このADPを構成している核酸の一部が、身体にとって不要なものとして分解される際に、プリン体が生成され、最終的に尿酸へと代謝されます。
つまり、エネルギーを多く消費すればするほど、体内での尿酸生成量も増加する可能性があります。

生成された尿酸の一部は尿へ排出されますが、約9割は腎臓で再吸収され、血液中に戻されます。
この再吸収率が高いため、激しい運動の後やプリン体が多い食品を摂取した際には、一時的に血中の尿酸量が高くなることがあります。
また、体内で作られる尿酸の量が正常であっても、体質的な要因や腎機能の低下によっても、尿酸の排出が滞り、血中濃度が高くなることがあります。

尿酸は水に溶けにくい性質を持っているので、血中の尿酸濃度が一定以上(高尿酸血症の基準値)を超えると、血液に溶け込むことができなくなり、尿酸塩という白い結晶となって体内の様々な組織に蓄積し始めます。
これが関節に溜まると激しい痛みを伴う痛風(風が吹くだけでも痛いことから名付けられました)を引き起こします。
腎臓に溜まると痛風腎と呼ばれる腎機能の低下を招き、さらに腎臓に溜まった結晶が剥がれて尿管に移動すると、激痛を伴う尿管結石となることがあります。
尿酸値の管理は、これらの病気を予防するために非常に重要です。

燃えるイメージ

3. タンパク質の代謝で作られる「アンモニア」

三大栄養素の中でもタンパク質は、特有の窒素(N)を含んでいます。
私たちがタンパク質を摂取し、体内でアミノ酸に分解された後、そのアミノ酸をエネルギーとして利用したり、別の物質に変換したりする際に、この窒素が問題となります。

アミノ酸からアミノ基(窒素を含む部分)が外れると、残りの部分はエネルギーとして利用されますが、外れたアミノ基は非常に有害な物質であるアンモニア(NH3)を生成します。
アンモニアは、身体にとって強い毒性を持つため、そのまま体内に蓄積しておくことはできません。

そこで、私たちの身体は、主に肝臓でアンモニアを無害な尿素に変換するプロセス(尿素回路)を持っています。
尿素は毒性が低く、腎臓でろ過され、尿として体外に排出されます。
この一連のシステムが、体内のアンモニア濃度を適切に保っています。

しかし、肝機能が低下している場合、アンモニアの解毒作用がうまく行われず、血中のアンモニア濃度が高まることがあります。
血中アンモニア濃度が異常に高くなると、アンモニアが脳内に侵入し、神経障害を引き起こすことがあります。
これが肝性脳症と呼ばれる状態で、意識障害、異常行動、羽ばたき振戦(手が震える症状)などの神経症状が現れます。
肝硬変などの重度の肝疾患を持つ患者さんに多く見られる症状です。

また、アンモニアは美容にも影響を及ぼします。
便秘などにより腸内で悪玉菌が増殖すると、悪玉菌は腸内のタンパク質などを腐敗させ、アンモニア、アミン、フェノール、インドールといった様々な有害物質を作り出します。
これらの有害物質は腸から血液中に吸収され、全身を巡ります。その一部は汗となり肌の表面に到達し、汗の中に含まれる有害物質が肌を刺激することで、肌荒れやニキビが生じると考えられています。
さらに、皮膚からアンモニアガスとして放散されるため、体臭の悪化にも繋がることがあります。
腸内環境を整え、アンモニアの発生を抑えることは、全身の健康だけでなく、美容や体臭ケアにとっても重要です。

体内に入ってくる有害物質:外部からの脅威とその対策

私たちは、日々の生活の中で、意識的あるいは無意識的に、身体に悪影響を及ぼす様々な有害物質を取り込んでいます。
これらの物質は、代謝の過程で生成される老廃物とは異なり、主に外部環境から侵入してくるものです。
中には、発がん性を持つ物質も含まれており、その影響は決して軽視できません。

世界保健機関(WHO)の一部門であり、発がん状況の監視、発がん原因の特定、発がん性物質のメカニズムの解明などを目的として活動している国際がん研究機関(IARC)は、発がん物質を以下の4つのグループに分類しています。

  • グループ1
    人に対して発がん性がある(十分な証拠がある)
  • グループ2A
    人に対しておそらく発がん性がある(十分な動物実験の証拠と、限定的な人での証拠がある)
  • グループ2B
    人に対して発がん性がある可能性がある(限定的な人での証拠があるか、十分な動物実験の証拠がある)
  • グループ3
    人に対する発がん性について分類できない(証拠が不十分または矛盾している)
  • グループ4
    人に対しておそらく発がん性がない(十分な証拠がある)

これらの分類を参考に、私たちの身近に存在する主な有害物質を見ていきましょう。

メディカル

1. 身近な嗜好品に潜む「アルコール」

最も身近な発がん性物質であり、IARCの分類でグループ1(人に対して発がん性がある)に分類されているのがアルコールです。
アルコール自体が直接がんの原因となるわけではなく、アルコールが体内で分解される過程で生成されるアセトアルデヒドという物質に発がん性が認められています。

アセトアルデヒドは、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によって生成され、さらにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によって無害な酢酸へと分解されます。
しかし、日本人を含む東アジア系の人々には、このALDH2の働きが遺伝的に弱い人が多く存在します。
少量の飲酒で顔が赤くなる、動悸がする、吐き気がするといった症状が出る人は、このALDH2の働きが弱い体質の可能性が高いです。
そのような体質の人が過度の飲酒を続けると、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすくなり、特にがんになるリスクが高まるとされています。

過度の飲酒は、口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸といった消化器系のがん、そして女性の乳がんの原因となることが科学的に証明されています。
厚生労働省は、1日の節度ある適度な飲酒量を純アルコール20g以下と定めています。
これは、ビール中ビン1本、日本酒1合、ワイングラス2杯程度に相当します。
健康のためには、この基準を守り、自身の体質を理解した上で飲酒量を管理することが非常に重要です。

2. 日常の食品に潜む「アクリルアミド」

アクリルアミドは、IARCの分類でグループ2A(人に対しておそらく発がん性がある)に分類されている物質です。
近年の研究により、糖とタンパク質が結合し、高温(一般的に120℃以上)で加熱されることで生じる糖化反応(メイラード反応)の際に、発がん性物質が生成される可能性が指摘されています。
この糖化反応によってできる物質の総称をAGEs(終末糖化産物)と呼び、100種類以上の化合物がAGEsとされていますが、その中でも特にアクリルアミドの有害度が危険視されています。

アクリルアミドは、アミノ酸の一種であるアスパラギンと、ブドウ糖や果糖を多く含む食品を高温で調理した場合に生成しやすいと考えられています。
具体的には、ポテトチップス、フライドポテトなどのジャガイモを揚げたもの、ビスケット、クッキー、パンのような穀類を原材料とする焼き菓子に多く含まれています。
また、コーヒー豆やほうじ茶葉のように高温で焙煎した食品にも多く含まれることが報告されています。

一方で、加熱していない生の食材にはアクリルアミドは含まれていません。
また、煮る、蒸す、茹でるといった水を使った調理法であれば、食品の温度が100℃前後で推移するため、120℃以上にならないことでアクリルアミドはほとんど生成されないことが分かっています。

人に対するアクリルアミドの発がん性については、まだ十分な疫学的な証拠は得られていませんが、動物実験では明確な発がん性が確認されているため、厚生労働省や農林水産省は、消費者に向けた注意喚起や食品事業者への低減策の推奨を行っています。
揚げ物や焼き菓子の摂りすぎに注意し、調理法を工夫することが、アクリルアミドの摂取量を減らす上で有効です。

3. 複合的な有害物質の塊「タバコに含まれる成分」

タバコは、IARCの分類でグループ1(人に対して発がん性がある)に分類されており、その有害性は広く認識されています。
タバコの煙には、ニコチン、タール、一酸化炭素という「三大有害物質」の他に、70種類以上もの発がん性物質が含まれています。

  • ニコチン
    脳内に入るとドーパミンを分泌させ、強い依存症を引き起こします
    。また、血管を収縮させ、動脈硬化を促進することで、心臓病や脳卒中のリスクを高めます。
  • タール
    タバコのヤニの主成分であり、発がん性物質や発がんを促進させる物質を数十種類含んでいます。
    喫煙者の肺が黒くなるのは、このタールが肺に蓄積するためです。
  • 一酸化炭素
    血液中のヘモグロビンと強く結合し、酸素の運搬能力を阻害します。
    これにより、全身の細胞や組織が酸素不足に陥り、倦怠感や集中力低下、心臓への負担増大など、様々な健康問題を引き起こします。

喫煙者は、非喫煙者に比べて肺がんのリスクが約4.8倍、咽頭がんが約5.5倍、食道がんが約3.4倍、尿路がんが約5.4倍になると言われています。
これら以外にも、口腔、胃、膵臓、肝臓、腎臓、膀胱、子宮頸部など、ほとんどの臓器においてがんのリスクが高まることが明らかになっています。
受動喫煙も同様に健康リスクを高めるため、禁煙は自身だけでなく、周囲の人々の健康を守るためにも極めて重要な選択です。

4. 大気中に浮遊する微細な粒子「浮遊粒子状物質(SPM)」

浮遊粒子状物質(SPM:Suspended Particulate Matter)は、大気中に浮遊している微細な粒子状の物質で、その中でも特に粒径が10マイクロメートル(µm:0.001mm)以下のものを指します。
これらは、主にディーゼル車からの排気ガス、工場からの排出物、建設現場の粉塵、さらには自然由来の砂塵や花粉など、様々な発生源から大気中に放出されます。

粒径が10µmより大きい粒子の場合、呼吸によって鼻から吸い込んでも大部分は鼻腔粘膜に吸着され、肺には到達しません。
しかし、SPMのような微細な粒子は、気道や肺胞といった肺の奥深くまで容易に侵入し、沈着するため、呼吸器疾患の主要な原因となります。
ぜんそくや気管支炎の悪化、肺機能の低下、さらには循環器系の疾患のリスクを高めることが指摘されています。

浮遊粒子状物質の問題は、単なる個人の努力で解決できるものではなく、国や世界全体で取り組むべき環境問題でもあります。
大気汚染の状況によっては、外出を控える、マスクを着用するといった個人的な対策も必要になりますが、根本的な解決には、環境規制の強化やクリーンエネルギーへの転換など、社会全体での取り組みが不可欠です。

まとめ:デトックスで健康な身体を維持する

私たちの身体は、生命活動の過程で生み出される老廃物と、外部から侵入する有害物質という二種類の「ゴミ」に常にさらされています。

  • 体内で作られる老廃物(クレアチニン、尿酸、アンモニアなど)は、主にエネルギー代謝やタンパク質代謝の副産物であり、腎臓や肝臓といった臓器の働きによって無毒化され、体外へ排出されます。
    これらの臓器の機能が正常であることが、老廃物デトックスの鍵となります。
  • 体内に入ってくる有害物質(アルコール、アクリルアミド、タバコの成分、浮遊粒子状物質など)は、日常生活の中で摂取してしまう可能性があり、中には発がん性を持つものも含まれます。
    これらは、自身の生活習慣を見直すことで、摂取量を減らす努力が可能です。

「デトックス」という言葉は医学用語ではありませんが、私たちの身体が持つ本来の浄化システムを滞りなく機能させることは、健康を維持し、病気を予防する上で極めて重要です。
体内にゴミが溜まっていると、栄養素の吸収や血液の循環がスムーズに行われなくなり、結果として全身の機能低下に繋がる可能性があります。

健康な身体を維持するためには、以下の点に注目し、日々の生活習慣を改めて見直してみることが大切です。

  • バランスの取れた食
    肝臓や腎臓の負担を減らし、腸内環境を整える食事を心がけましょう。
    食物繊維を多く含む食品は、有害物質の排出を助けます。
  • 十分な水分摂取
    老廃物の排出には水分が不可欠です。
    こまめな水分補給を心がけましょう。
  • 適度な運動
    血液やリンパの流れを促進し、デトックス機能を高めます。
  • 質の良い睡眠
    身体の回復と修復を促し、デトックス機能をサポートします。
  • ストレスマネジメント
    ストレスは身体に負担をかけ、デトックス機能を阻害する可能性があります。
  • 有害物質の摂取を控える
    喫煙や過度な飲酒を避け、食品添加物や加工食品の摂取量にも注意を払いましょう。
  • 定期的な健康チェック
    肝機能や腎機能の検査を受けることで、早期に異常を発見し、対処することができます。

私たちの身体は、自らを浄化する機能を持っています。
その機能を最大限に引き出すために、私たち自身が意識的に健康的なライフスタイルを送り、体内環境を整えることが、本当の「デトックス」に繋がると思います。