【限局性学習症(SLD)とは?】読み書き・計算の困難を乗り越える特徴と具体的な支援策
限局性学習症(SLD)の基本:特定の学習技能の困難
限局性学習症(SLD:Specific Learning Disorder)は、発達障害の一種であり、全般的な知的発達に遅れがないにもかかわらず、「読み書き」や「計算」など、特定の学習技能にのみ著しい困難を示すことが特徴です。
以前は「学習障害(LD)」とも呼ばれていましたが、現在ではDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)に基づき「限局性学習症」が正式名称として用いられています。
SLDの3つの主なタイプ
SLDの困難さは、主に以下の3つの領域に分類されます。
- 読字障害(ディスレクシア)
文字を正確に「読むこと」や、読んだ内容を「理解すること」に困難がある。
文字がゆがんで見える、読んでいる行を飛ばしてしまうなどの特性が見られることがあります。 - 書字表出障害(ディスグラフィア)
文字を正確に「書くこと」や、筋道を立てて文章を作成することに困難がある。
鏡文字を書いてしまう、誤字脱字が多い、板書を写せないなどの特性が見られることがあります。 - 算数障害(ディスカリキュリア)
「数の概念の理解」や「計算」、「推論」に困難がある。繰り上げ・繰り下げが苦手、九九が覚えられない、図形やグラフの理解が難しいなどの特性が見られることがあります。
SLDの原因と診断のポイント
SLDの原因は、中枢神経系の機能障害によるものと推定されており、生まれつきの特性と考えられています。
視覚障害や聴覚障害、あるいは情緒障害など、他の要因によるものではないことが診断において重要です。
また、保護者の育て方や教育方法が直接的な原因ではないことが強調されています。
診断は、専門医や専門家が、学習における困難さが知的障害や環境的な要因、他の神経疾患によるものではないことを、心理検査や問診などから総合的に判断した上で行われます。
SLDの子どもたちへの具体的かつ効果的な支援策
SLDに対する根本的な治療法は確立されていませんが、特性に応じた環境調整や療育、学習支援を行うことで、学習の困難さを大きく軽減し、成功体験を積み重ねることが可能です。
特にADHDやASDなどの他の発達障害を併存する場合も多く、それらの特性も考慮に入れた多角的な支援が不可欠です。
| 困難な領域 | 具体的な支援方法(ICT活用含む) | 支援の目的 |
| 読むこと | 音声化技術の活用(読み上げソフト、電子書籍の読み上げ機能、オーディオブックなど)。 行を追うためのリーディングルーラーや色付き下敷きの使用。 UD(ユニバーサルデザイン)フォントの使用。 | 文字を「聞く」ことでインプットの負担を減らし、内容理解に集中できるようにする。 |
| 書くこと | ICT活用(パソコン、タブレットでのキーボード/音声入力)。 マス目の大きなノートや罫線入りの教材の使用。板書が困難な場合はレジュメや資料の配布。 | 手書きの負担を軽減し、アイデアや思考を表出する力を伸ばす。 |
| 計算すること | 電卓や計算ソフトの使用(学校の許可のもと)。 具体的な実物を使って数の概念を視覚的に理解させる(例:おもちゃ、お金)。グラフィックオーガナイザーで文章問題を図式化する。 | 抽象的な概念の理解を助け、計算ミスによる自尊心の低下を防ぐ。 |
連携と環境調整の重要性
SLDのある子どもたちを支えるためには、以下の連携と環境調整が不可欠です。
- 個別化された教育計画(IEP)
学校が一人ひとりのニーズに合わせた具体的な学習目標と指導方法を設定する。 - 多感覚学習法
聴覚、視覚、触覚など複数の感覚を使い、情報処理を助ける。 - 家庭・学校・専門家の連携
心理学者、言語療法士、特別支援教育専門家などが連携し、一貫したサポート体制を築く。
SLDは、努力不足や怠けではなく、脳機能の特性によるものです。
周囲がこの特性を深く理解し、適切な支援を提供することで、子どもたちは学習上の困難を乗り越え、自己の可能性を最大限に引き出すことができるのです。







