体幹トレーニングの代表格であるプランクは効果が不明確|腹圧は高まらない
目次
体幹トレーニング=プランクだが効果は不明確
体幹である腹筋群、背筋群などはスポーツパフォーマンスを高めるうえでとても重要で、スポーツに限らず健康を維持する為に全ての人にとっても重要です。
体幹トレーニングとして体幹の固定・安定を目的としてプランクが行われることが多いかと思います。
「体幹トレーニング=プランク」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
プランクは、体幹の筋力トレーニングとしても活用されることもあります。
お腹の深部にある深層筋である腹横筋の活動を目的としたドローインもよく行われるかもしれません。
しかし、プランクで実際に体幹を安定させる腹圧の上昇はしていないようです。
そもそも多くのスポーツ動作では、体幹を固定させるよりも大きくダイナミックに動作して力学的仕事を行っています。
これを考えるとプランクが果たして意味があるのか、という疑問が出てくるのです。
とは言ってもプランクの実施による競技パフォーマンスの向上を認める報告もあります。
しかし、反証するデータもあるのです。
そのメカニズムについては明確になっていません。
また、ドローインには腹横筋を使えるようにする効果が腰痛患者において認められています。
しかし、腹横筋の筋活動レベルはスポーツ競技動作のほうがドローインよりもはるかに高くなります。
スポーツをして競技動作が十分に行えるのであれば、ドローインを行う意味はあまりないのかもしれません。
研究報告から考えると体幹トレーニングであるプランクやドローインの効果には、不明確な部分が多くよく分からないと言えそうです。
体幹の機能から考えると体幹動作の強い筋力と大きな可動性が重要であると考えられます。
体幹が注目された研究で一気にブームに
体幹トレーニングは、一時期かなりブームになっていたかと思います。
今でも体幹トレーニングの重要性はよく言われます。
しかし、多くのスポーツ競技動作において大きな力で大きく動くには、腕と脚の関節運動で体幹ではありません。
では、なぜ体幹に大きな注目が集まったのでしょうか。
そのきっかけの1つとして、1990年代のHodgesらの「立位姿勢において腕・脚を肩関節・股関節から大きく動かす運動課題を与えると、腕・脚の動きに先立って体幹筋群(背筋群・腹筋群)の筋活動が起こる」という研究報告HodgesとRichardson1,2)があげられます。
この結果から腕と脚を動かす動作では「四肢の土台部分の体幹を固定して安定させる」動作を先行して行っているものと解釈することができます。
この「土台部分」の体幹の固定・安定が競技動作や日常の身体動作において重要ではないか、と注目されるようになりました。
その流れからアメリカのトレーナー組織の推奨する、プランクなどの体幹の固定を強調したトレーニングが一気に広まったのです。
体幹トレーニングは、今でも一過性のブームではなく完全に浸透しているかと思います。
また、HodgesとRichardson1,2)の報告では、体幹筋群の筋活動の中でも深部に位置する腹横筋がより先に筋活動を開始する様子が観察されています。
体幹の深部筋の筋活動の先行に注目する研究者は多く、全身動作の円滑化に貢献するだろうとの考え方があります。
この考えに基づいた運動処方にドローインがあります。
お腹を凹ませるドローインは腹横筋を選択的に活動させることで腹横筋の使い方の教育を狙って行われます。
プランクでは腹圧はほとんど高まらない
プランクは「腹横筋などで腹圧を上げて体幹を固めることを意識する」とスポーツの現場で言われることが多いと思います。
プランクのイメージとして体幹を固めていると思われやすいですが、実際にはプランクで腹圧はほとんど高まっていません。
横隔膜が呼吸で動いているので呼吸しながら行うプランクでは、腹圧が大きく上がるとは考えにくいのです。
実際に腹圧を測定した研究によると、仰向けでの安静時で腹圧を0%、バルサルバ手技での腹圧を100%とした相対評価値で、通常のフロントプランク、バックプランクなどのいろいろな向きでのプランクでの腹圧は、いずれも10%程度以下だったそうです。
これは、安静時に立っているのと同程度でほぼ腹圧は上がっていないことになります。
それに対して野球のピッチング、バッティング、サッカーのキック、ジャンプなどを全力で行った場合の腹圧は、瞬間的に4-60%と大きく上昇します。
筋力トレーニングではスクワットで大きく上昇し、10RM負荷で45% 程度です。
瞬間的に大きな力を発揮するダイナミックな競技動作で腹圧が特に大きく高まるようです。
これらのことから腹圧を高める目的でプランクを行うことは間違っているのかもしれません。
スポーツでは体幹のダイナミック性が重要
腕と脚の土台の安定の為にプランクを行うことが多いかと思いますが、そもそも多くのスポーツにおいて体幹は固定化されていません。
腕と脚と同じく動作して大きな力を生み出しています。
野球のピッチングやバッティングなど、腕、脚を振り回す競技動作では体幹の回旋動作を大きな動作範囲で行うことが重要になります。
また、回旋だけでなく屈曲・伸展動作も多くの競技で強く大きく行われています。
例えば、垂直跳びでは股関節、膝関節、足関節だけでなく、体幹の屈曲伸展も大きく力学的仕事をしています。
背中を丸めてしゃがみ、背中を反らせて跳ぶ。
Blacheらのシミュレーション研究では、腕の振りを除いた力学的仕事量を計算すると、体幹伸展運動の仕事量は全体の20%程度にもなるそうです。
多くの競技動作で体幹は土台として固めるというよりも、強く大きく動いて多くのエネルギーを生み出す部位としての要素が大きいです。
腕、脚の運動課題に対して体幹筋群が先に筋活動を生じることは確認されています。
しかし、体幹の作用として固定・安定を図ることだけが重要ということにはならないと言えます。
運動において必ずしも体幹を固定・安定させることが重要とも限らないということです。
プランクをする意味はある?
プランクは腹圧の変化から体幹の固定に直接的には関係していないと思われます。
多くのスポーツ競技動作では体幹は固定ではなく、大きく強く動くことが重要です。
なので、プランクが競技にプラスの作用を及ぼすとは考えにくいのですが、実際に競技パフォーマンスにプラスの結果を及ぼすという報告は多くあります。
跳躍動作においては、プランクの実施により直後の一過性の効果、長期のトレーニング効果を認めたとする報告があります。
多方向のプランクによる腹筋群、背筋群の筋活動の促通が競技パフォーマンスでの体幹筋群の活動の活性に繋がったのかもしれません。
または、プランクの実施が体幹筋群の活動や体幹動作に対する意識づけができて、それが動きに影響した可能性もあります。
その一方で、プランクの実施が競技パフォーマンスに影響しないとするレビューもあります。
プランクに関して一致した見解は得られてはいない状況です。
体幹に対する意識づけにはプラセボ的な意味合いも含まれているかもしれませんが、プラセボだったとしてもそれには意味があります。
プランクの実施によって体幹の軸を意識しやすくなり、安定した動きをしやすいと感じるのであれば意味はあります。
そして動きが実際に改善するなら、それも効果の一つと言えるのです。
これがプランクがアスリートに受け入れられる理由なのかしれません。
通常の筋力トレーニングにもプランクの要素を含むものはあります。
腕立て伏せはフロントプランクの背中のトレーニングであるベントオーバーローイングはバックプランクの動きを含んでいます。
これらの種目を体幹の安定性を意識しつつ行えば、本来の筋肥大・筋力増強効果にプラスしてプランクによるパ フォーマンス向上効果も得られるかもしれません。
ですので、プランクをわざわざ行わなくてもよいと考えることもできます。
体幹のコントロール能力の改善効果は、プランクと通常の筋力トレーニングで同様に得らえるとする報告がありますが、このあたりが関係しているのかもしれません。
結局のところプランクをする意味があるのかどうかは、個人個人で異なると言えそうです。
プランクは、体幹を固定・安定させる為に行うのではなく、体幹の筋肉の意識づけを目的として行うようにするといいのかもしれません。
参考・引用元:体幹トレーニングの流行の背景と効果に関する考察