乳幼児期の心地よい感覚が脳を育て社会性を育む、オンラインでは内受容感覚は得られない
乳幼児期の心地よい感覚が脳を育てる
内受容感覚の発達は、アタッチメント形成に重要な役割を果たしています。
ヒトを含む哺乳類動物は、生まれてから母親から授乳されることで生きることができます。
授乳されると血液中のグルコースが高くなり、内受容感覚には心地よい感覚が生まれます。
これは大人も同じです。
おいしい食べ物を食べた後は心地よくなり眠たくなることがあると思います。
また、哺乳類動物は養育固体に身体をぴったりとくっつけて育ちます。
サルやチンパンジーの乳児は、母親に抱っこされて育てられます。
哺乳類動物の子育ての基本は、養育固体との身体接触です。
この身体接触も乳児の内受容感覚に大きな変化を生じさせます。
愛情ホルモンと言われるオキシトシンや幸せホルモンと言われるセロトニンなどが分泌されてきます。
そして、ヒトだけが見せる子育ての特徴は笑顔を向けたり、声をかけたりすることです。
このようなことは、サルやチンパンジーの母親は決して行いません。
抱っこして授乳するだけです。
ヒトの乳児だけが、身体の内部に心地よい感覚が高まったタイミングで誰かから微笑みかけたり声をかけられたりするという経験を積極的に与えられているのです。
このような経験を日々重ねていくと乳児の脳の中にある変化が生じてきます。
身体の内部に心地よい感覚が起こっている時にいつも見聞きする人の顔や声が記憶として結びついていきます。
これを連合学習と言います。
この時期、養育固体との経験によって外受容感覚と内受容感覚の統合が進んでいくと実際に授乳されたり、抱っこされたりしなくても脳内で記憶として結びついた人の表情や声を見聞きしただけで、精神が安定するようになります。
これがヒトのアタッチメントが形成される仕組みになります。
脳発達の感受性期にアタッチメント形成が上手くいかないと誰かといて安心するという感情を持つことが難しくなってしまいます。
そうなると社会的場面での不安傾向が高まり、対人関係に問題が起こりやすくなってしまいます。
脳は予測の臓器です。
外界からの刺激が入ってきて、それが認知されるまでの時間は約0.1秒です。
情報が何であるかを理解してから行動をしても遅すぎてしまい、それでは生存できなくなってしまいます。
そこで脳内には、経験に基づいて次に何が起こるかを予測する神経モデルが作られています。
私たちは何かが起こる前にこのモデルに従って行動をして生きています。
これを内部モデルと言います。
対人関係は、とても複雑で変化しやすいです。
内部モデルによる予測が外れると大きなストレスを抱えることも少なくはありません。
それでも対人関係の予測モデルがないと私たちは複雑な社会関係を築いて生きていくことができないのです。
対人関係の予測モデルを作っている土台となっているのは、幼少期のアタッチメントになります。
この土台がないと他者との関係を広げていくことはできません。
アタッチメントの対象は、実の親でなくてもいいのです。
いつも安定して関わってくれる、いつもくっつける誰かが、乳幼児期には必要です。
子供たちの将来は、家庭環境によって左右されるべきではありません。
全ての子供たちを誰一人取り残すことなく社会が守らなければいけないのではないでしょうか。
その為に何をするべきかを考える必要があるのではないでしょうか。
おじいちゃん、おばあちゃんとの触れ合いで社会性が育まれる
家庭内でお母さんやお父さんがマスクを外して十分な身体接触をすれば、子供の脳や心には問題は起こらない、と言う人もいるかもしれません。
ですが、家庭を超えた多様な他者の表情を見る機会や身体接触が減ることが子供の脳の健全な発達においては明らかにマイナスなのです。
特に幼児期は、ある特定の誰かとの間に形成されたアタッチメントを先生や友達、近所の人など多様な他者との関係を築くことで社会性を発達させていく時期だからです。
コロナによって離れて暮らすおじいちゃんやおばあちゃんに会うことを控えるように言われました。
最近では、ネットによるリモートでのオンラインも一般的になってきているかもしれません。
人と人との関係でITを活用することは悪いことではありませんが、意識しなければいけない点もあるのではないでしょうか。
それは、身体感覚です。
オンラインでおじいちゃんと顔を合わせて会話をする場面を想像してみてください。
この時、私たちの身体が得ている情報は視覚と聴覚だけになります。
オンラインでは、おじいちゃんやおばあちゃんと手をつないだり抱っこしたりなどの身体接触は当たり前ですができません。
身体接触によってもたされる心地よい感覚、内受容感覚はオンラインでは得られないのです。
ただし、コロナ前の経験によっておじいちゃんやおばあちゃんの顔や声が心地よい内受容感覚と結びついて記憶されている場合には、オンライン会話による視覚、聴覚情報だけでもある程度の満足を得ることができるかと思います。
しかし、このような経験がない人では、その感覚はまったく変わってくるでしょう。
おじいちゃんやおばあちゃんと直接触れ合った経験があまりない子どもたちにとっては、その温もりや安心感をオンライン会話で得ることができなくなってしまいます。
コロナによって遠くに住む家族との面会を控えている人も多かったのではないでしょうか。
おじいちゃんやおばあちゃんと直接触れ合うことは、子供たちにとっての社会性を育むうえでとても貴重な機会になります。
オンラインでのコミュニケーションが当たり前になってしまうと、誰かと会いたい、触れ合いたい、と言う思いすら起こりにくくなってしまうのではないでしょうか。
外界から入ってくる視覚や聴覚などの外受容感覚は、感情を生み出す内受容感覚と統合されることで、美しい、心地よいなどの意識、価値づけがなされます。
しかし、ITが対人関係で過度に活用され過ぎてしまうと、外受容感覚に偏った情報処理で世界を理解する、私たちとは異なる感性を持つ世代が生まれてくるかもしれません。
何でもかんでも消毒で起る弊害
ヒトの脳と生涯にわたる心の健全な発達には、身体接触が重要となります。
乳幼児にとって身体を介した触れあいが重要なのは、この時期の身体感覚を獲得すること、アタッチメントを形成することだけではありません。
体内に生息している細菌を活用して免疫を高める上でも重要な役割をしています。
ヒトの腸内には、約1000種類100兆個の腸内細菌が棲んでいると言われています。
ヒトの消化酵素で分解できない成分を分解するだけではなく、ビタミン類や乳酸、酪酸など私たちの生命維持に有用な物質を作り出しています。
また、病原菌の繁殖を防ぎ免疫機能を調整する働きもしています。
腸内細菌叢がどんな種類の細菌で構成されるかは、個人によっても民族によっても大きく違います。
例えば、大半の日本人は海苔やワカメを分解して腸内細菌のエサとする酵素遺伝子を持っていますが、他の民族はそれをあまり持っていません。
また、食物繊維を分解して腸のエネルギー源となる酪酸を生成する菌が多いのも日本人の特徴です。
個人が持つ腸内細菌叢の形成にも脳と同様に感受性期があります。
3~5歳くらいまでに私たちが生涯を通じて持つ菌の構成が決まるとされています。
乳酸菌やビフィズス菌がたくさん入った健康食品などが売られていますが、これを摂ったからといって腸内細菌叢を構成する菌が大きく変わるわけではありません。
腸内にある程度の期間は存在していても永く定着することはないとされています。
抗生物質を飲めば、病原菌だけでなく腸内細菌の組成も大きく変化してしまいますが、時間の経過とともに元の腸内細菌叢に戻っていきます。
乳幼児期までに作られる腸内細菌叢は、私たちの健康の土台となっているものです。
腸内細菌叢は、出産時にお母さんものをそのまま受け継ぎます。
その後、様々な食べ物を摂取したり、物に触れたり口で舐めたりすることで多種多様な菌が体内に定着していきます。
しかし、コロナによって消毒が徹底されるような日常になりました。
このような環境の変化は、腸発達の感受性期にある子供たちに果たしてどのような影響を与えているのでしょうか。
食事の前、遊びの後、園や学校の入り口など様々な場面で消毒を毎日頻繁に求められます。
過度な消毒によって、もしかしたら腸内細菌叢の発達にも何かしら影響を与えている可能性もあるかもしれません。
腸内細菌叢は、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの生成に関わっています。
セロトニンは神経伝達物質で、9割は脳ではなく腸に存在しています。
セロトニン不足によってうつ病やパニック障害などの不安障害の発症リスクに関与することが分かっています。
なので腸が第二の脳と言われているのです。
脳腸相関という言葉もよく使われます。
精神的なストレスがあるとお腹が痛くなったりしませんか。
これが深刻化すると下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群と診断されます。
反対に腸の調子が悪くなると脳の働きにも悪影響が現れて不安が増すと言われています。
一生涯持つ腸内細菌叢の基本ができるのは乳幼児期です。
この時期に過剰な感染対策を行うことで子供たちの脳や心の働きに影響を及ぼしているのか、それが今後のどのような影響として出てくるのかについては、まだ何も分かっていません。
過度な消毒が、腸の発達にある子供たちにとって良いことなのか悪いことなのか、その答えは何年も先になるでしょう。
私たちは、長期的な視点で様々な角度で物事を考える必要があるのです。
参考書籍⇒マスク社会が危ない 子どもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?