ストレスとは何か?その正体と身体のメカニズムを解説|良いストレスと悪いストレス
現代社会で「ストレス」という言葉を聞かない日はないかもしれません。
仕事、人間関係、日々の生活の中で、私たちは常に何らかのストレスにさらされています。
では、ストレスはただ「悪いもの」なのでしょうか?
実は、ストレスには私たちの成長を促し、パフォーマンスを向上させる「良いストレス」も存在します。
この記事では、ストレスの定義から、その原因となるストレッサーの種類、そして私たちの身体がストレスにどう反応するのかを解説していきたいと思います。
そもそも「ストレス」って何?心理学的な定義とゴムボールの例え
「ストレス」という言葉は、もともと物理学の分野で「物体に加わる圧力やひずみ」を意味していました。
これを心理学や生理学の分野に応用したのが、オーストリア出身の生理学者ハンス・セリエです。
彼は、ストレスを「身体的・精神的な安定に影響を与える出来事の総称」と定義しました。
ストレスについて理解するためには、次の3つの要素を押さえておくことが重要です。
- ストレッサー(Stressor)
ストレスを引き起こす原因となる刺激や出来事のこと。 - ストレス反応(Stress Response)
ストレッサーに対する、心身の反応のこと。 - ストレス(Stress)
ストレッサーが心身に加わった結果生じる「ひずみ」の状態。
この関係性は、人間の精神状態をゴムボールに例えると分かりやすいです。
- ゴムボールが元の形を保っている状態
これは、ストレスのない安定した状態です。 - 外部から圧力が加わる
これがストレッサーです。
ボールが凹んだり、歪んだりします。 - 弾力性で元に戻ろうとする
これがストレス反応です。
ボールは元の形に戻ろうとします。
この例えが示すように、私たちの心身には、外部からのストレッサーに対してバランスを保とうとする自己回復力(ホメオスタシス)が備わっています。
しかし、ストレッサーが強すぎたり、長期間にわたって続いたりすると、このバランスが崩れ、「ひずみ」が生じてしまいます。
悩ませるストレスの原因|4つのストレッサー

ハンス・セリエは、ストレスを引き起こす原因であるストレッサーを、その性質によって4つに分類しました。
日常生活に潜むストレッサーを理解することで、より効果的な対処法が見つかるかもしれません。
- 物理的ストレッサー
環境から受ける物理的な刺激です。- 例
猛暑や厳寒、騒音、不快な光、放射線、気圧の変化など。
オフィスでの空調の効きすぎ、工事現場の騒音などがこれに該当します。
- 例
- 化学的ストレッサー
身体に取り込まれる化学物質による刺激です。- 例
タバコ、アルコール、排気ガス、薬物、化学物質、アレルゲンなど。
大気汚染や、食品添加物などもストレッサーになり得ます。
- 例
- 生物的ストレッサー
生物が体内に侵入することで生じる刺激です。- 例
細菌、ウイルス、カビ、花粉、炎症など。
風邪やインフルエンザ、花粉症の症状も、身体にとっては大きなストレスです。
- 例
- 心理的・社会的ストレッサー
人間関係や社会生活の中で生じる精神的な刺激です。- 例
人間関係のトラブル、仕事のプレッシャー、不安、怒り、喪失体験、過労、経済的な問題など。
現代人が最も多く感じているストレッサーと言えます。
ポジティブな出来事(結婚、昇進など)でも、大きな環境の変化を伴う場合はストレッサーになり得ます。
- 例
これらのストレッサーは単独で作用するだけでなく、複合的に絡み合って私たちの心身に影響を及ぼしています。
ストレスにどう反応する?ハンス・セリエが提唱した「汎適応症候群」
ストレッサーが心身に加わると、私たちの身体はそれに適応しようとします。
ハンス・セリエは、この適応プロセスが「警告期」「抵抗期」「疲弊期」という3段階を経て進むことを発見し、これを「汎適応症候群」と名付けました。
- 警告期(Alarm Stage)
ストレッサーに初めて直面する段階です。- 身体が危機を察知し、自律神経が急激に反応します(交感神経が優位になる)。
心拍数の増加、血圧の上昇、筋肉の緊張、アドレナリンやコルチゾールといったストレスホルモンの分泌が起こります。
一時的に抵抗力が低下し、ショック状態に陥ることもあります。
- 身体が危機を察知し、自律神経が急激に反応します(交感神経が優位になる)。
- 抵抗期(Resistance Stage)
ストレッサーに適応しようと、身体の抵抗力がピークに達する段階です。- ストレッサーが継続すると、身体はそれに慣れようと適応力を高めます。
ストレスホルモンの分泌が安定し、一見、ストレスにうまく対処できているように見えます。
しかし、この状態は「無理をしている」状態であり、エネルギーを大量に消費しています。
- ストレッサーが継続すると、身体はそれに慣れようと適応力を高めます。
- 疲弊期(Exhaustion Stage)
ストレッサーが長期間続き、身体のエネルギーが尽きる段階です。- 抵抗期で無理を続けた結果、心身の限界を超え、適応力が失われます。
自律神経やホルモンバランスが崩壊し、免疫力が大幅に低下します。
うつ病、高血圧、糖尿病、胃潰瘍など、様々な心身の病気のリスクが急激に高まります。
- 抵抗期で無理を続けた結果、心身の限界を超え、適応力が失われます。
重要なのは、ストレッサーがどんな種類であっても、人間の生理的機能は同じプロセスをたどるということです。
この疲弊期に達する前に、適切な休息や対処法を取り入れることが、ストレスによる病気を防ぐ鍵となります。
ストレスは「悪者」ではない!良いストレスの存在とパフォーマンスの関係

私たちはストレスと聞くと、つい「胃が痛い」「眠れない」「イライラする」といったネガティブなイメージを抱きがちです。
しかし、ストレスは必ずしも悪いものではありません。
例えば、適度なプレッシャーがある方が仕事に集中できる、好きなスポーツで緊張感がある方が良いパフォーマンスを出せる、といった経験はありませんか?
これこそが「良いストレス」の作用です。
心理学では、「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」がこの関係性を説明しています。
この法則によると、ストレッサー(緊張感やプレッシャー)とパフォーマンスには相関関係があるとされています。
- ストレッサーが弱すぎる
やる気が起きず、集中力も低下するため、パフォーマンスは低くなります。 - ストレッサーが強すぎる
過度な緊張や不安で実力が発揮できず、パフォーマンスは低下します。 - ストレッサーが適度なレベル
集中力やモチベーションが向上し、最も高いパフォーマンスを発揮できます。
この法則は、私たちが日々の生活で「適度なストレス」をコントロールすることの重要性を示しています。
目標を達成するためのプレッシャー、新しいことに挑戦する際のワクワク感などは、心身の活性化につながるポジティブなストレッサーと言えます。
まとめ|ストレスと上手に付き合うために
ストレスを完全にゼロにすることは不可能ですし、必ずしも良いことばかりではありません。
大切なのは、「ストレスをなくすこと」ではなく、「ストレスとうまく付き合うこと」です。
この記事で解説したポイントをまとめます。
- ストレスは「ひずみ」であり、原因となる「ストレッサー」と、身体の「ストレス反応」から成り立っている。
- ストレッサーには、物理的、化学的、生物的、心理的・社会的の4つの種類がある。
- 身体のストレス反応は「警告期」「抵抗期」「疲弊期」の3段階で進行し、疲弊期が続くと病気のリスクが高まる。
- ストレスには「良いストレス」も存在し、適度なレベルのストレスはパフォーマンスを向上させる。
日常生活で「なんだか調子が悪いな」と感じたら、それは身体からの「警告」かもしれません。
どのストレッサーが原因なのかを考え、適切な休息やリフレッシュを取り入れることで、疲弊期に陥るのを防ぎましょう。
ストレスについて正しく理解し、自分にとっての「適度なバランス」を見つけることが、心身ともに健康な毎日を送るための第一歩になります。







