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ヘルス&フィットネス~日々の健康・身体作りに役立つ知っておきたいこと~

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トレーニング・フィットネス

パフォーマンスを高める高地・低酸素トレーニングについて、肺や筋肉で酸素を使う能力が向上する

日本の高地トレーニングの歴史

日本は世界的に見ても高地トレーニングを実践している国の一つであり、その研究に関しても長い歴史があります。
東京大学名誉教授の小林寛道氏が中心となって1997年11月世界に先駆け「高地トレーニング環境システム研究室」を発表しました。
高地トレーニングのきっかけは1968年に海抜2240mのメキシコシティーでオリンピックが開催されるにあたり、高地でパフォーマンスを発揮するにはどのような準備をすればいいのかが問題点として挙がったことです。
当初の研究は、高地におけるパフォーマンス発揮の変化に関するものが多く占めていました。

しかし、ほとんどの競技大会は平地で行われています。
そこで平地で競技を行う場合でも「高地トレーニングをしてからだと何か良いことがあるのではないか」という観点で研究が行われるようになりました。
トレーニングの方法として高地・低酸素トレーニングの活用を模索してきたのです。

高地トレーニングで最も有名な効果は、赤血球の増加になります。
呼吸循環器系の向上だけではなく、筋肉の中で何が起こっているのか、高地で何日過ごせばいいのか、高地トレーニングの効果は平地に戻ってどの程度維持できるのか、ということに目を向けるようになってきました。
最近では、低酸素状況を作り出す人工気象室のような部屋がフィットネスクラブにも設置されるようにもなっています。
アスリートだけでなく一般の人が運動効果を高める為に導入される時代になってきていると言えます。

ですが、フィットネスクラブで導入されている低酸素環境は、研究施設のとは少し異なります。
大きな違いは、低酸素室のドアが普通に開閉できる除圧低酸素であることです。
もし、山の上と同じ環境を作るのであれば気圧も下げる必要があります。
研究室だと簡単に開閉できなく、低圧低酸素状態を作ることができます。
今は「運動するなら低酸素環境でやるといいらしい」「低酸素環境で運動をすると汗をたくさんかくらしい」「脂肪が燃焼しやすいらしい」などで科学的な効果よりも施設の目新しさが先行している状態かと思います。
低酸素状態で運動をした方がよりきついですし、より短時間で息を上げることができるので、短い時間で効率よくトレーニングをすることができるかと思います。

一般の人が低酸素環境で運動を行うことによってどのような変化があるのかというデータはアスリートを対象にしたデータのように多くあるわけではありません。
なので現時点で、本当に良いのか悪いのかを明確に言える段階ではないと言えます。

高地トレーニングによる身体の変化

循環器系解剖イメージ

では、高地トレーニングを実際に行うと身体の中でどのような変化があるのでしょうか。

高地トレーニングでは当たり前ですが、体内の酸素が少ない状態になります。
例えば標高3000mでは、空気中の酸素濃度は15%くらいになります。
平地での酸素濃度は21%あるので、7割程度まで減ることになります。
極端に減るわけではないですが、空気中の酸素が少ないことを感じられるくらいにはなります。

コロナで少しだけ話題になったSpO2(末梢血酸素飽和度)が平地だとだいた98くらいですが、標高3000mでは90~92程度まで下がります。
標高の高い所に行けばSpO2も下がっていきます。
なので高い山に挑む登山家は酸素ボンベを持って行きます。

高山病のリスクは標高2500mくらいからあるとされています。
高山病とは、高地で酸素が不足することで起こる症状の総称で、頭痛や吐き気、疲労などがあります。
エベレストなどのような7000m級の山に登るような登山家は体内の酸素循環がとても優れていると言えます。
酸素濃度が低い場合、平地なら1回の吸気で21取れるものが高地だと15しか入ってこなくなります。
これにより呼吸数や吸気量を増やそうとします。

また、体内に入ってくる酸素が薄いと赤血球がその酸素をなるべく拾って使おうとします。
ですので、赤血球の酸素を結合する能力や結合した酸素を筋肉などに与える為に離す能力が高まったり、筋肉が酸素を受け取ろうとする能力が上がったりします。
高地トレーニング研究の創成期には、特に肺や筋肉で酸素を使う能力の向上が報告されました。

高地トレーニングは鍛錬期に取り入れてみよう

公園を走る女性

世界的な基準だと高地トレーニングの期間は30日間くらいかけて行うのが良いとされています。
実際のところ長いことに越したことはないですが、競技種目や競技レベルを問わず約1ヶ月間も高地に滞在することは、スケジュール的な問題や金銭的な問題もあって難しいと言えます。

また、滞在期間はなるべく短く、効果をできる限り継続してほしいというのが選手やコーチの希望かと思います。
高地合宿後、大会に向けて高地から平地に移動し、身体を平地に慣らすには、3日ほど必要と仮定してみます。
すると下山まで何日間高地に滞在できるのか、というのを逆算してスケジュールを立てるのが基本かもしれません。

代表選手・チームの場合、合宿は10日間ほどかと思います。
滞在期間や下山後の調整期間にどのくらい必要なのかは、個人によって異なります。
下山後すぐに何の問題もなく、いつでも試合に出れるという人もいれば、体調がやや不安定になる人もいます。
高地トレーニングの効果の持続も個人差があります。
その効果が直ぐになくなってしまう人もいれば、下山して1週間程度続く人もいるなどバラバラです。
ですので、個別に状況を見ていく必要があります。

実際スポーツの試合のほとんどが平地で行われます。
高地トレーニングの目的は、平地でのパフォーマンスを高めることでしょう。
なので、重要な試合の直前に高地に行く場合は、それまでの経験や個別対応が重要となります。

高地トレーニングを導入する初期には、タイミングとして年間の中で鍛錬期の時に少し高地へ行ってみる感じが良いのではないでしょうか。
そこでの経験を踏まえて今後どうするか、どのように高地トレーニングを取り入れていくかを模索していくことになると思います。