筋力トレーニングの常識を覆すかもしれないmTOR、リボソームをフル稼働させタンパク質合成を促す
研究の変還、mTORがリボソームをフル稼働させる
タンパク質の合成や分解に関して、このところ研究者の考え方がかなり変わってきています。
そもそも論として筋肉を増やすには、タンパク質を合成してタンパク質を多く作らないといけません。
⇒筋肉が大きく肥大するのは「筋繊維再生系」と「タンパク質代謝系」によって起こる
筋力トレーニングをするとタンパク質を合成する為の設計図を遺伝子(DNA)から写し取り作成すると言う働きが活性化します。
この設計図を「mRNA」(メッセンジャーRNA)と言い、この仕組みを転写と言います。
少し前までは、この転写が非常に注目をされていました。
ですが、転写の活性化は筋力トレーニング以外の様々な刺激でも起こります。
また、その詳しいメカニズムは複雑で解明が非常に困難であることから、mRNAからタンパク質が作られる過程に注目が集まるようになりました。
タンパク質を作るのは、細胞内のリボソームと言う細胞小器官です。
つまり、リボソームはタンパク質を作る工場になります。
工場であるリボソームにいくら設計図を送ったとしてもリボソームがサボっていたらタンパク質を作ることができません。
そこで、タンパク質を合成するリボソームをフル稼働させる刺激が大切ではないのか、と言うことになりました。
それが「mTOR」(エムトール)と呼ばれるタンパク質キナーゼの一種です。
mTORがタンパク質の合成を促し筋肥大させる
歴史的な経緯から言うと、センチュウと言う虫にラパマイシンと言う抗生物質を与えたところ、成長が止まることが分かったのが始まりです。
その要因を調べてみるとラパマイシンによって発現が抑えられてしまうタンパク質が見つかりました。
それをTOR(ターゲット・オブ・ラパマイシン)と呼びました。
TORは、ラパマイシンが結合するとその機能を失い成長を抑えてしまいます。
身体の発育させる上で非常に重要なタンパク質になります。
TORは、哺乳類(マンマリアン)の細胞にもあります。
同じように細胞や生物が成長をする為の重要なファクターになっていることが分かり、それをmTOR(マンマリアン・ターゲット・オブ・ラパマイシン)と呼びました。
その後、筋肉にトレーニングによって負荷を与えるとmTORがリン酸化されることが分かりました。
mTORのリン酸化は周囲の化学変化も誘発してその結果、タンパク質を合成する最終段階である翻訳活性が高まります。
その事実が発表されてから、筋力トレーニングと筋肥大をつなぐのはmTORだと言うことが多くの科学者が考えるようになりました。
そして、現在に至るまで筋肥大に関する研究は多くがmTORをテーマにしたものになっています。
mTORが筋力トレーニングの常識を覆すかもしれない
mTORがリン酸化される反応が進むとタンパク質の合成が促進されます。
反対にタンパク質の分解の抑制が高まることが分かっています。
リボソームでのタンパク質の合成が高まると、自動的に分解が抑制される仕組みが働くようになっているのです。
その結果、タンパク質の量が増えてくることになります。
mTORのリン酸化を進行させるようなトレーニングをすることが筋肉を効果的に肥大させる刺激になるのではないか、と現在は考えられているようです。
エキセントリックなトレーニングをネズミに行わせると言う実験があります。
例えば、力を出した状態でゆっくりと筋肉を引っ張るスロートレーニングをさせるとmTORのリン酸化が上がりタンパク質の合成が高まります。
ですが、力を出している時に素早く過激に引っ張ると反対にmTORのリン酸化が下がりタンパク質の分解が進んでしまうことが分かりました。
つまり、急ブレーキをかけるような過激なエキセントリックの刺激を繰り返してしまうと筋肥大にはマイナスになってしまうかもしれないと言うことです。
このようにちょっとした筋肉の使い方でmTORのリン酸化の状況は変わってくると言えそうです。
ちょうどいい刺激ならタンパク質の合成が高まりますが、やり方が悪いと合成が抑制され分解が促進してしまうことになると考えることができます。
人間の場合でもこのような変化が起っていると考えることができるでしょう。
mTORに関する研究は、まだまだ進行中です。
今後、たくさんの研究結果が出てデータを調べていくとより効果的なトレーニング法が分かってくるのではないでしょうか。
これが解明されれば、今後の筋力トレーニングの常識自体を変えてしまう可能性もあるかもしれません。